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言語知識あり、ただし使いこなせるかは別の話

「△△△△、ぶっ殺△△△△△△△△!」


「待て! □□□□□□□□□□□□□□?」


 ちょっ!? 今、不穏な言葉が聴こえた気がするんだが……。


 槍を持った若者の数は3名。幸い、リーダーらしき青年が、槍を構えて駆け出そうとする若者を止めてくれていた。


 これに対し、どうすればいいのかと言えば、俺に選択の余地はない。まずは両手を上げて、抵抗する気が無い事を示す。

 戦った事も無ければ、運動神経も悪くて足は遅い。戦おうが逃げようが、結果は見えている。全面降伏以外に道は無かった。


 えっと、こっちの言葉で、何て言えば良いんだっけ?


「オレ、アヤシイ、ナイ、ユックリ、シャベべぐぺっ!?」


 痛っつぅーーー!? おもいっきり舌噛んだわ。


 頭をひっくり返し、捻り出した簡単な単語で会話を試みるも、慣れない発音に舌が付いて行かない。それにどうしたって、片言になってしまうから、怪しくないという言葉にも説得力は無いだろう。


「ぷぷっ、□□□□□□□□□、ゆっくりだな、このくらいで、いいか?」


「ハイ、アリガト」


「もう一度、聞くが、お前は、何者だ?」


 俺の噛んだ姿が滑稽だったのか、リーダーらしき若者が戦意を緩め、ゆっくりと語り掛けてくれた。結果オーライって奴だ。これも日頃から滅多に使わずに、退化してしまった舌のおかげである。


 リーダーが18歳、他の若者が15歳くらいだろうか? 欧米系の容姿のため断定はできないが、だいたいそのくらいだろう。装備は革の鎧と鉄の槍で俺と大差無いが、体格は一回りは大きく見える。


 どう背伸びしたって勝てる相手ではない。せっかく、話に応じてくれたのだから、どうにか穏便に済まそう。


「オレノナマエ、クルス、ホカノクニ、キタ、ミチ、マヨッタ」


「なるほど、異人で、迷子の、クルス君か。俺達は、あの村の、自警団。俺の名は、チェスターだ」


 青年が遠くに見える集落を指さして、そう名乗った。



 俺に危険が無さそうだと判断したチェスターは、仲間の2人を先に村へと帰し、色々な事を教えてくれた。


 ここはルーズウッド王国という国で、この辺りは最南端の地域だそうだ。彼らの住む村は、名もなき小さな村であり、彼はその村の自警団の副団長なのだと言う。


 村に滞在できないかを聞いたところ、俺のような得体の知れない人間を中に入れるわけにはいかないとのことだった。ちなみにその際、身分証の類が無いか聞かれたが、当然のように持ってなかった。


 村に入れない俺は、野垂れ死に決定かと言えば、そうではない。ここから街道を南に歩いて半日とかからない距離に、城壁都市サウスホープという街が有り、そこなら入れてもらえるだろうと彼は言った。


 ルーズウッド王国最南端の街であり、南部森林地帯からの魔物の侵入を阻む要害。それが城壁都市サウスホープであり、彼の村はその近隣集落の一つであるとのことだった。


 まずは、チェスターに教えられた通り、サウスホープへと向かう事にした。


「アリガト、チェスターサン、オレ、イク」


「なあに、良いって事よ。今から向かえば、お昼過ぎには付くだろう。気をつけて行けよ」

  

 街道まではチェスターについていき、そこで手を振って別れた。



 街道を南下しながら、先ほどの会話を思い出す。


 チェスターには感謝だな。情報もそうだが、言葉の訓練が出来たのが大きい。喋る方はぜんぜんだが、聞き取りに関してはだいぶ慣れてきた。


 それでもやはり、会話がワンテンポ遅れてしまうのはどうしようもない。これは、英語に例えるとわかりやすいかもしれない。


 英語で話す時、俺の場合は、少なくとも次の5つの手順を踏む。

 1、相手の英語を聞き取る

 2、英語を日本語に変換する

 3、日本語で意味を理解し、日本語で解答を考える

 4、日本語の解答を英語に変換する

 5、英語で相手に解答する


 これが慣れてくると、1と5は意識せずに出来るようになるだろう、そうなると3手順だ。さらに使い込み、母国語レベルになれば、日本語に変換せずとも、英語のまま理解して英語の解答を考え出せるらしい。実質1手順となり、どう答えるか考える以外は、無意識で出来てしまう。


 そうなるまで、どのくらい掛かるのだろうね。まあ、がんばれ俺の言語中枢さん。


 まあ最悪、ゆっくり喋ってもらえば何とかなるし、しばらくの我慢だ。それよりも今は、街に着くことが先決だ。たしか歩いて半日も掛からないんだったな、そうすると4時間くらいか?


 俺はそう考えて思考を打ち切る。少しずつ暑くなる日差しを感じながら、周囲の風景を眺めながら歩き続けた。



 それから2時間ほど歩いたが、街はまだ見えてこない。こんなに歩くのも久しぶりなため、足は既に棒ののよう。さらには、昼の日差しのせいもあり、身体中汗だくで気持ち悪い。


 頭の中では、休憩を摂りたいという甘い欲望との激闘が繰り広げられている。止まってしまったらきっと、再び歩き出すことは出来ない。


 何が「4時間くらいか?」だ、馬鹿じゃないのか俺は。日頃運動してない俺が、そんなに歩けるわけ無いじゃないか……。


 最初の30分は良かった。異世界に広がる田園風景を眺めながら、なっている作物を見たりと、余裕があった。ちなみに、キャベツやキュウリ、トウモロコシとトマトに見える作物があった。気候的に見ても今は、初夏なのかもしれない。

 

 気持ちのいい日差しだとか、都会と違って美味しい空気だな、とか思ってた自分をぶん殴ってやりたい。

 あー、あのクソオヤジめ……ショートソードなんて役に立たない物じゃなく、4WD車を付けてくれればいいのに。せめて、自転車くらいは欲しかった……。


 俺が、グチグチ文句を言いながら、街道を更に南へと向かった。



 更に時間が経った…………。

 …………。

 ……。


 既に文句を言う元気もない。街に辿り着けないと野垂れ死ぬ。その確信だけが俺の身体を支えていた。

 よろけるように1歩を踏み出し、倒れないようにさらに1歩。一歩一歩、無心で歩き続ける。

  

 ふと顔を上げると、街道の先に小さく街が見えた。

 

 安心して崩れ落ちそうになる身体と、嬉しさで駆けだそうとする心。その両方を押しとどめて一歩一歩を確実に重ねていく。


 限界を超えた身体を引き摺って、どうにか街へと辿り着いたのだった。


 

 結局、街までは5、6時間くらい掛かった。途中、意識が朦朧としていたため、どこまで正しいかは不明だが、10時間は掛かっていないはずだ。陽はまだ高い位置にあるし。


 ちなみにこの世界の時間は、24時間で1日、6日で1週間、30日で1ヶ月、12ヶ月で1年と、地球とほぼ同じだ。違うのは1週間のところで、月、火、水、木、土、日と、金曜日だけが存在しない。

 お休みは日曜日のみだ、週休2日制になれた日本人にはキツイところだろう。だが、俺のように月休2日制のブラック戦士にとっては、何の問題にもならない。


 いや、今はそんな余計な事を考えてる場合じゃないな。


 目の前に並ぶ人々の列を見る。俺の前に並んでいるのは10名ほどの人と、3台の馬車だ。

 馬が時より粗相をするため、油断をすると馬糞を踏みそうになる。さっきも踏みそうになり、疲れた身体を酷使して、寸でのところで躱した。もう、躱せるだけの体力は残っていない。

 

 ここに来るまで、街道にはほとんど人の気配が無かった。人通りが増えたのは、街の手前で他の街道と合流してからだ。街道は街から200メートルほどの所で、5本に枝分かれしている。俺もその中の一本をたどって来たのだ。


 目の前には聳え立つ外壁、街の周囲を囲む壁は10メートルは軽く超える高さだ。下手すると20メートルくらいあるのではないか? 

 そんな外壁の一角に設けられた門に、人々が吸い込まれていく。



「次の者、入ってよし!」


 並んでから30分ほどで、俺の番となった。外壁の内側に入ると、外が暑かった分、意外に涼しい。


「身分を証明できるものはあるか?」


「アリマセン、イナカカラ、デカセギ、キタ」


「む? その黒髪に黒目、お前もしかしてヤマト人か?」


 ヤマト人て、もしかしてあれか、他の転生者が作った国とかか? これは期待できるんじゃないか、いろいろと。頼むぜ、日本の物をいろいろ再現していてくれよ!


 とワクテカしつつ、俺はそれに乗っかる事にした。


「ハイ、ソデス。コトバ、ナレテナイ、ゴメンネ」


「そうか、なら話は早い。ヤマト人には●●●●●●が多いから歓迎だぞ。この街は●●●●●●●●●●●足りないからな。身分証が欲しいなら冒険者ギルドだな。門のすぐそば、入って左側だ」


「アリガトゴザマス、モウ、ハイッテイイ?」


 門番の言葉は、ところどころ聞き取れなかった。しかし、歓迎してくれているようなのでスルーだ。さっさと街に入って休みたいんだよ、俺は!

 

「いいや、身分証が無いから、チェックが必要だ。そっちの、鑑定士の婆さんのとこに寄ってくれ」


「ワカッタ、アトハナニカ、アル?」


「そうだなぁ……身分証が出来たら、一旦見せに来い。あとはがんばれよ!」


「アイアイサー」


 門番さんに教えられた方に行くと、鑑定士の婆さんとやらが座って待っていた。


「ミブンショナイ、チェックオネガイ」


「異人さんとは珍しいのぉ、今見てやるからそこに座っとくれよ」


 婆さんの正面に座ると、しわしわの婆さんが俺の目をジッと見てくる。

 ババアと見つめ合うとか、どんな罰ゲームだ。


「お主の目は腐っておるが、●●はまだ濁って無いようじゃな」


「ヘ、ナニガ、ニゴテナイテ?」


 目が腐ってるのは今更だ、そっちは目くじらを立てるような事ではない。


「オドじゃ、オド! 人種の魔力の根源じゃよ。人が罪を犯すと、ここが濁るんじゃよ」


「アア、オドノコトネ。ソレデ、モウイッテイイカ?」


 取り合えず、知ったかぶりをしてしまう癖は直さないとな。

 まあ、そう言って毎回直さないんだけどさ。


「まあよかろ、行って良しじゃ!」


「アリガトゴザマス、バイバイ」


 こうして、どうにか街に入ることが出来た。


 まずは冒険者ギルドか、とりあえずその前にどっかで座って休みたい。このまま、ギルドで冒険者に絡まれるテンプレが発生すると、ひとたまりもないだろう。



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