桜の呼ぶ声に耳を傾けてはいけない
「 どうしたんです? さっきから某として 」
え? 白百......合?
私は無我夢中で白百合の両肩をつかんだ。
そして激しく揺さぶりながら質問の嵐を投げかける。
「 白百合!! お前......血は!! 大丈夫なのか!? 」
「 え? ちょっ、どうしたんですか急に!?」
どうしたんですか、じゃ無いだろ!! あれだけ血を流してたんだ!
無事でいられる筈が無い!!
「 今すぐ病院に行こう! とにかく怪我を診てもらわないと!」
「 え? え? 露火ちゃんどこか怪我してるの!? 」
何言ってるんだよ! 怪我してるのはおま......え?
私は少しだけ冷静さを取り戻した。
というより、目の前の現実に頭が冷えた、というべきか。
白百合の制服には血が一滴もついていなかった。
そして気づいた、さっきまで私の腹部を襲っていた激痛がうそのように無くなっていることに。
血の跡も、手についた血も無くなっている。
「 幻......? 」
これが私の精一杯の答えだった。
「 ? よく分かんないけど、とにかく素敵な絵でしょ! 私、持って帰って部屋に飾ろうと思うんだ!! 」
その言葉に私は......
「 へぇ〜、良いんじゃない! シワとかも全然目立たないし 」
と返した。
拒否したらさっきの事が起こりそうで怖かったから。
しかし私はうすうす気づいている。
さっきの事は起こりえる、いや実際に起こった事なのだろうと。
私が選択を間違えていればきっと。
「 ところで最近、この辺りで行方不明者がでてるんだって、怖いね〜 」
今日の事は帰ってから考えよう、多分そうした方がいい。
「 あ......ああ、可哀想だよね〜、家族の人とか 」
そういえば今朝のニュースでも言ってたなぁ。
この辺りで行方不明者が出てるからどうのこうのって。
神隠しとか、山で迷子になった、とかで少しだけ今話題になってるやつ。
実際は単なる迷子だろう、この町は山に囲まれてるから遊び場として遊んでるうちに......てオチでしょ。多分。
しかもどういうわけか抜け出せなくなる不思議な空間があるらしいから地元の人でも森の奥深くには行こうとしない。
好奇心旺盛な子どもならたとえ親に言われても行く子もいるだろう。可哀想だけど。
私の考えはこういったものだった。
「 でね〜、噂に聞いたんだけどぉ、行方不明になった人たちってみんな...... 」
みんな、の後が気になった私は何だよ?と聞く。
すると
「 喰べられちゃったんだってぇ!! 妖怪に! 」
声を荒らげて言う白百合に対して私は心底呆れた表情を見せる。
そして
「 妖怪ねぇ〜、いるもんなら見てみたいねぇ〜 」
と両手を上にして真っ向から否定した。
白百合はホントだもんと言い張り、私の歩先に立ちはだかる。
部活の先輩が見た、という事らしい。
私は心底バカバカしいと思い、鼻で笑った。
妖怪や幽霊なんている訳が無い。
せいぜいシミュクララ現象だろうよ。
まぁ信じる信じないかは人次第だけどねぇ。
「 はいはい、分かった分かったその話はまた今度、それよりあそこのカフェ行こうよ、新作出たらしいよ! 」
「 ほっ本当!! すぐに直行ナウ! 」
やれやれ、相変わらずのブーデーだなぁ、アイツは。
まぁとりあえずゆっくり考えてみるか。