桜に呼ばれて
それは夕暮れに差し掛かった刻の事だった。
「 露火ちゃ〜ん! おっまったせ〜〜! 」
「 ちょっ!」
そいつは本を読んでいて無防備になっている私の背中に突然ダイブしてきた。
びっくりして危うく大切な本を落とす所だった。
「 もぉ! 危ないなぁ! 」
私は呆れた表情でダイブしてきた張本人をみつめる。
「 うふふ、露火ちゃんの体、柔らかくていい匂いがするのです! 」
【西之 白百合】(にしの しらゆり)
幼馴染で私と同じ高校に通う普通の女子高生だ。
普段はおしとやかな性格なのだが部活でテンションが上がるといつもこういったバイオレンスな過剰接触を求めるようになる。
一方で私は帰宅部なのだが、家でダイエットを目的に筋トレを日頃からしているので体格は割とガッチリしている。
おかげで転ばずに済んだ。 己の筋肉に感謝!
「 で、なんなの? 話って 」
今日は白百合に話があると聞いてわざわざこんな時間まで校門の前で待っていたのだ。
「 はい、実はですねぇ…… 」
愛の告白でもするのだろうか?
などと頭の中で冗談を呟きながら私は首を斜めに傾げる。
「 これです!!! 」
クシャクシャに丸められた大きなポスターのような紙。
白百合はソレをポケットから取り出して私の前に差し出した。
「 ……なにコレ 」
私は眉をひそめて神妙に尋ねる。
すると白百合はニコニコしながら無言でそのままクシャクシャの紙を広げ始めた。
「 ………桜の……絵? 」
広げられたポスターに写っていたのは一本の大きな桜だった。
吹きすさぶ風に花吹雪を散らしている。
そんな様子が写真と見間違えるくらい精巧に描かれている。
とてもキレイな桜だった。
コレどうしたの? と私は白百合に尋ねると、どうやら先生に頼まれて倉庫の整理をしていたら奥にクシャクシャのコレが転がっているのを発見したらしい。
学校の備品かと思ったが、それならばこんなクシャクシャに丸まっているのはおかしいと思い、興味本位で広げたらあまりにも美しい物だった為、つい出来心で持って来てしまったとの事。
「 もぉ、勝手に学校の備品持ち出しちゃダメでしょ! すぐに返して来なさい!」
私はソレが学校の備品だと思っていた。
だって学校の倉庫にあったんだから、誰だってそう思うでしよ?
たとえシワクチャになっていたとしても。
「 え〜! 嫌ですぅ! 家に持ち帰って部屋に飾ろうと思って持って来たんだもん! 」
いいから! と私は強引に押し切り、白百合の襟首を持って半ば引きずる形で職員室に向かった。
白百合はヤワな抵抗を続けるが関係ない!
私は一向に無視して先生のいる職員室に向かう。
その時だった
ゾクッ
背筋に凄まじい悪寒が走った。
まるで意識がはっきりしたまま、麻酔もせずに体内にメスを入れられるような恐怖を全身が感じ取った。
あまりにも怖くてとっさに振り向けなかった。
でも私はおそるおそる後ろを振り返った。
そこには……