夜津矛のカケラ
「………現物を見せてくださらない?」
“枝”の一人
【紫玉 撫子】しぎょく なでしこ
は左手に持つ扇子で口元を隠しながら夜に申し出る。
夜は後方で跪いている夜津葉を呼んだ。
夜津葉は音もなく静かに夜に駆け寄り、麻の布で幾重にも巻かれた楕円形の物体をそっと献上する形で夜に渡す。
夜はソレを手に取り、布を巻き取り、そっとブラックテーブルの上に乗せた。
当主達はわずかに動揺しながらソレをジッと見つめる。
その物体はこの世界の物ではない。
そう感じてしまう程の深い重圧を放っている。
夜は話を続けた。
この石を同量で全員に一つずつ渡し、用途を教える事。
そのかわり皆で協力し、桜を守り続ける事。
発言したのはこの二つのみだった。
物で釣ろうとしても無駄なのは夜がよく知っている、故に何かを言い続けるのも意味がない。
生き物が最優先で考える事はデメリットとメリット。
夜は全て悟るように理解している。
ここにいる者は一族を率いる者、言わば一族の王達。
王ならば己の民達のために何らかの働きや施しをしなくてはならない。
でないと国が衰退し、滅んでしまう。
そうならない為には多少危険であろうが一歩先へ進むしかない。
たとえそれが未知の可能性だとしても。
夜は協定書をテーブルの中央へ差し出した。
「………では皆様、どうか署名を」