資格
「......一つ付け加えるのを忘れていました。」
上がりかかった挙手を静電気に触れたかのように途中でピタッと止め、その場の当主達全員夜に視線を注ぐ。
夜は淡々と無機質な感情の言葉を紡ぎ始めた。
その紡がれた内容は当主達を全員、驚愕の渦へと送りこむ。
「何……だ…と!?」
それは一族の内情をほとんど把握している当主だからこその反応だった。
夜は今、ダイヤモンドで出来た家を無償でプレゼントする、と言うのと同義の事を言ったのだ。
その内容は
「サインした者には拳大の夜色金を一つ送る。」
というもの。
そのたった一言の威力は凄まじく、場に漂う暗雲は跡形もなく消し飛んだ。
朱音丸も目を見開き、動揺を顔に張り付かせて硬直している。
その場の全員が思っていた。
不可能だと。
しかし何故かこの者ならば可能だろうと思えてくる。
夜色金の錬金はほぼ不可能。
普通の錬金術はもちろん、魔学や科学の力を持ってしても錬成は不可能に限りなく近い。
何故なら、肝心な材料が無いから。
夜色金の錬金にはある特殊な霊魔力が必要となる。
当主達は全員その事を知っている、故に確信に至った。
何故この者にあらゆる待遇が許されるのか、何故この者から底知れぬ何かを感じるのか。
その答えが今、全員の心中に深く突き刺さった。
誘意 夜はその霊魔の力を身体に宿している。