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前起
「良いぜ、書名してやんよ」
いち早く挙声を上げたのは朱音丸 大火。
一瞬だけ当主達のキッとした視線が朱音丸にそそがれる。
一方、向けられた本人は不敵な笑みを浮かべて皆に睨みを効かせる。
この部屋全体を包んでいるブリザードのように冷え荒ぶ空気と剣山の上を歩いているような危うい感覚。
朱音丸は楽しんでいた。
朱音丸が心底から欲している物は【危険】。
炎に身を焼かれるような緊張感。
無慈悲に鎌を振る死神。
紙一重の勝敗と決着。
それらに打ち勝つ事が彼女にとって至上の喜びであり彼女の心底から欲する愉悦である。
死神を屠り、緊張に打ち勝ち、紙一重の勝利をもぎ取る。
その感覚は何物にも変えがたく、どこまでも濃厚でどこまでも愉悦に満ち溢れている。
そしてそれは論争も同じ。
朱音丸 大火という少女は目の前にある酒の肴を絶対に手放さない。
「だが、それは後でだ」