御当家
「お待ちしておりました。御三方様。」
横並びに立っている三人の者達は白紙の紙を見るように感情の篭っていない声で三人に深々と御辞儀を構えた。
お辞儀をした者達は三種類の面を被っていた。
一人は狐、一人は鬼、一人は翁。
面の三人は同じ装いをしていた。
黒い厚手のロングコートを纏い、肌密着型の極薄の黒い手袋、そして長細いロングブーツを履いている。
面の三人はお辞儀をしたまま言葉を紡いだ。
「御当家様がお待ちにございます」
その一言は夜以外の二人の眉をピクッとひくつかせた。
そして狐面の者は左手を向こうに停車している黒いリムジンの方へかざし、お乗りくださいと一言そえて乗車を促した。
この時点で三人に乗る以外の選択肢は無かった。
御当家とは七つある分家の当主達と本家の一族を束ねている当主を総称した名である。
つまり、当主達が待っているので急ぐように、移動は自分達に任せろという無言のメッセージだった。
この申し出を断るという事は『一族の集結を拒む』事を意味している。
つまりは『一族に仇なす』、もしくは『一族の存亡を望まない』事と同意だった。
よほどの事情がない限り、欠席は許されない。
三人はその事を勉学を習う年齢よりも前から親達に深く刻みこまれている。
三人は無言で指されたリムジンに歩を進める。
リムジンの数メートル手前まで近づくと待ち構えていた運転手が慣れた動作でリムジンのドアを優雅に開ける。
三人は無言のまま車に乗り込む。
そして間も無くドアはバタンッと閉められ、エンジンは鳴り響き出発した。