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合いの手
藪に飛ばされた刀はものの数秒で起き上がり、再び夜達を追いかけた。
夜達はもうすでに山の麓まで来ている。
山の入り口目指してひた駆ける夜達を空高く見下ろす一振りの日本刀。
切っ先を夜の頭部に静かにゆっくりと丁寧に定める。
そして、天駆ける流星の矢となって夜に降りかかる。
最初に目撃したのは朝だった。
夜の上空に月光を反射する一筋のまばゆい光線が目の端に映ったのだ。
「夜姉!!」
瞬間
光の矢は止まった。
刃の峰を両手で挟まれて止まっていた。
俗に言う
「「真剣白刃取り......」」
朝も夕闇も画面の向こうではなく、実際に生で見るのは初めてだった。
そもそも、日常生活において見たことがある訳が無い。
合掌した手の中でカタカタと刀身が震える。
押さえられた手から脱出しようと刀が渾身の力でもがく。
しかし、まるで万力で押さえつけられているかのようにビクともしない。
そして
パキン
ガラスの表面を弾いたような高い音が鳴った。