泰山脈動
「......どうやらここまでのようですね」
闇色に染まった木々がざわめき始めた。
夜の山風は寒さとなんとも言えぬ不気味さを風に乗せて肌を撫でる。
闇夜の向こうからこちらを覗く赤い眼光は灯火のように明るく、次第に弱まり、やがて闇に飲まれた。
夕闇達を包んだのは圧倒的なまでの静寂。
木々はとうにざわめきを止め、静寂を受け入れていた。
しかし、その静寂は一瞬で消え去る。
突如、朝の目の前に大きなヒビが入った。ヒビはどんどん広がっていき、パラパラと透明な粉を散らし、やがて一気に崩れた。
中から出て来たのは藍色の長髪をそよ風に舞わせた夜だった。
二人は多少、驚きつつも慌てて夜に駆け寄って両肩をつかみ、前後に激しく揺さぶりつつ、無事の安否を確認した。
夜はゼリーのように身体を揺さぶられながらも落ち着いた口調で大丈夫とだけ伝えた。
それを聞いた途端に膝から崩れおちる夕闇。
朝も心から安堵した様子で尻餅をついている。
しかしすぐにまた立ち上がった。
「早く山を下ろう!噴火に巻き込まれる!!」
夕闇はこうしちゃいられないと急いで山を下る。
夜は少しキョトンとしていた。
「.......噴火?」
夜は朝に尋ねた。
聞かれた朝はとにかく急いでと下山を促した。
朝の慌てように頷き、夜達も下山を始めた。
その時、山は大きな脈動を周囲に訴えた。