三世界の境界
「......止まった」
飛来していた物体は何の前触れもなく動きを止めた。そして夜の後ろには山のように積みかさねられた大量のモグラ。物体の正体はモグラだった。地面ではなく、空間を掘るように進みつづける見たことの無い灰色のモグラ。通常、モグラは地中に巣をつくり、滅多に地上へ出ることが無いため、目は退化している。しかしこのモグラには目玉のような部位が頭部に二つついていた。
ほとんど妖怪のような姿に決してかわいいなどとは言えない。まるで網に引き上げられた深海魚のような凶悪な顔、そしてネズミのような体躯。
大きさもネズミとほとんど変わらなかった。飛んで来たモグラの数は約七百、飛ぶスピードは約百五十二キロ、それが集団でロックオンして飛んで来ればまず避けきれない。
だがしかし
そんな理屈は夜には通用しない。
「......出よう」
夜はこの無限的空間の仕組みに気づいていた。
夜は地面に目印の円をえがいた。そしてその円の中にこれから自分の行く方向の矢印を書く。そして矢印の方向に従い、進む。地面に靴先を引っ掛けながら。ここはある程度進むと、いつの間にか進んだ方向の真後ろに戻ってしまう。そこで夜は境界を探す事にした。
まず、地面に線を引きながらまっすぐに進みつづける、そして、どの位置から戻ってしまうのか確かめる。次に横へ進む、同じく線を引きながら。
そしてどの位置から戻ってしまうのか確かめる。
まず、この行程を夜は終えなければならない。
しばらくして、夜は難なくこの行程を終えた。
前から後ろに切り替わる寸前
右から左へと移り変わる手前
そここそ、そして今、夜が立っている位置こそがこの無限的空間の境界であり、歪みであり、そして三世界の接点。
例え武器が無くとも、夜ならば、人口空間の一つや二つ、紙コップを手で潰すように容易い。
夜は手を前にかざす。
そして、一瞬だけ、手のひらに霊力を集中させる。
瞬間
ビキッというガラスにヒビが入ったような音が周囲にこだました。