霧の彼方より
それはまるで暗闇を浮遊する赤い蛍。
藪の向こうからこちらを覗く二つの小さな赤光はそんなイメージを掻き立てた。
「誰かしら」
夕闇達は言わずもがな警戒する。しかし眼光の主が一向に近づいてくる気配はない。
何者か分からないが、戦う意思は無いのだろうと悟る二人。
「なかなか、手こずったようですね、御二方」
重複したような定まらぬ声で二人に話しかけられた夕闇と朝。
話し方に聞き覚えは無かった。
二人はゆっくりと後ずさりを始める。しかしその者はそれを遮るように二人に話しかけた。
「大丈夫です、私は敵ではありません。味方でもありませんが。どうかそのままで」
淡々と語りかけてくるその者はその場に不思議な霧を噴出させ、周囲をあっという間に濃霧で包みこんだ。
自分の足元ぐらいしか見えなくなってしまう程の
濃い霧だった。冷んやりとした風が夕闇の頬をそっと撫でる。ほのかに冷たく、透き通った空気は
とても居心地が良く、疲れと腕の痛みが少し引いた気がした。
夕闇はどのみち逃げてもすぐに追いつかれるだろうと逃走を思考回路から捨てた。
一方の朝も傷の具合と視界の悪さですぐに逃走を諦めた。
いつ解放されるかは分からないが、今は休む事に専念したのだ。
武器があれば話は違ったのだが、と少し物惜しげに心中で呟く朝だった。
「安心して下さい、噴火は三分ほど延長させて貰いました、残りの時間は少しお話しを。」
その者は話が終わってからでも下山するには十分だと言う。
どこまで信用して良いものかと夕闇は疑いの目を離さなかった。しかし時すでに遅く、もやはここは敵の手中。信じるしかなかった。
「で、用件は何かしら」
腕を組み、やや不満気に質問する夕闇。
「申し訳ありません、では時間もありませんので手短に」
その者は淡々と内容を語った。