効率重視
「降参なんて認める相手じゃあ無いだろ夕姉」
悟すように朝は夕闇に教えた。
夕闇は首を横に振り、やれやれと言わんばかりの
視線を朝に送る。
「あっちはね」
親指で後ろを指す夕闇。
朝は慌てた様子で逃走をせがむが、夕闇は流水に浸る葉の如く流す。
そうこうしてる内に黒い手と衝突するまで残り十メートルを切ってしまった。
いまだ表情一つ微動だにしない夕闇。一方の朝は忙しなく逃げる準備に明け暮れている。
夕闇は朝の肩に手をポンっと置き、まあまあとなだめる。
そして、黒い手との距離が五メートルを切った時
再び空中に大きな魔法陣が展開された。
黒い手達は魔法陣の中に吸い込まれていく。
状況が読めず、ポカーンとその場に立ち尽くしている朝の前に回りこみ、渾身のドヤ顔で見下す夕闇。
そしてそのまま朝の腕をつかみ取り、上空へ勢いよくぶん投げた。
朝は空中で哀れな叫びをこだまさせながら黒い手の向こうへ頭から不時着した。
朝はゆっくりと立ち上がりながら薄赤に染まった顔面で夕闇のいる後方を睨んだ。
夕闇は苦笑しながら両手を合わせて謝罪のポーズを朝に送っている。
何故こんな事をしたのか、朝は何となく理解していた。
「......後で覚えてろよ、夕姉ぇ」
朝は右腕を前にかざした。
夕闇は既にその動作を終えている。
再び二人の腕が碧く発光し、黒い手は球体状に押し込まれ始める。
同時に焼き切れるようなジンジンとした激痛が二人の腕を包んだ。
苦痛で冷や汗が二人の頬を流れる。
およそ七分間、二人は激痛に耐えた。
そしてようやく黒い手の封印に成功した。
ドッと尻もちを着く二人。
朝は額の汗を右手で拭いながら息を切らしている。
夕闇は息切れしながら腕をさすっている。
神経を火で炙るような激痛はスゥーと引いていき、跡を残さず消えていった。
しかし二人の右腕は痙攣のような動きをしていた。
「大丈夫なのか?これ」
「神経がオーバーヒートしてるわね、まあ簡単に言えば一時的な炎症と言った所かしら。時間はかかるけど、これもその内引いていくわ。」
朝は少し安心したように仰向けに倒れた。
夕闇も同じように地面に倒れこんだ。
その時、パキッと枝が折れる音が周囲に響いた。