偶然は目の前に
無数に伸びる黒い手は夕闇を徐々に追い詰める。
だが捕まる事は無い。全て紙一重に避けていく。
「噴火じゃあ無理かな、これ」
あまりにも大きく禍々しいそれは噴火ではおそらく死にはしないだろうと確信する夕闇。
やはりここは封印するしかなかった。
だが、封印するには最低でも二人、つまりもう一人必要。現在、行方不明である夜はあまり期待できない。夕闇は朝を探すしかなかった。
☆
「さて、どうしましょうか」
ローブに包まれた女は小さな声で呟く。
女の手に魔法陣が展開した。しかし魔法陣はすぐに消える。
「いえ、まだやめておきましょう」
霧はより一層濃くなっていく。万が一に備えて女
は警戒していた。迂闊な者は滅ぶことを彼女は知っている。
ただ、手助けくらいはしてやろうと哀れみの意で
遠くの林に二メートルの魔法陣を展開した。
その魔法陣は転送魔法陣。陣の上にいる術者指定の物を転送するもの。そしてその魔法陣の上に
一人の怪我人。怪我人は驚く間もなく別の場所に
飛ばされた。
「やれやれ、私もまだまだ甘いわねぇ」
女は霧に呑まれて姿を消した。
☆
怪我人が飛ばされたのは小川。中腹地点だった。
そして、はるか上流に山の景色に似つかわしくない夕色の髪が舞っていた。怪我人は思わず声を漏らす。
「夕姉ぇ!?」
朝は状況の変化についていけなかった。夕闇に無数に伸びる黒い手。しかし黒い手がなんなのかは
なんとか理解が追いついた。
同時に、自分の置かれた状況も。