追い求める魂
黒い手は音もなく夕闇に忍びよる。
夕闇はゆらゆらと揺らめく水面の波のように避けていく。
しかし、黒い手は止むこと無くおしよせてくる。
「しつこいわねぇ」
夕闇は小川を転がる勢いで下っていく。
試しに踏み出し際に石を蹴りあげ、黒い手にぶつけてみる。
しかし、大した効果は得られなかった。せいぜい無数に伸びる手の一つが少しのけぞる程度だった。
これをなんとかするには、圧倒的な火力で中心の核を破壊するか、存在を封印するしか無い。
生きたまま魂を喰われた者はもと居た魂の器を
探し求める。しかし、彼らの器となりうる肉体はとうの昔に朽ち果てている。故に彼らは新しい魂の器を求める。
邪竜バジリスク
曰く、見た者を石にしてしまうと言われる伝説の邪竜バジリスク。
融合するにはとてつもない力が必要。男は融合するにふさわしい魂になるまで他の魂を喰らった。幾度も幾度も。大人子供関係なく。
結果、男は力を手にいれ、融合を果たした。
その代わり、心の奥底に膨大な数の嘆きが生まれた。男は己の霊力でそれを抑えこんだ。
夕闇を追いかけているのは肉体を求める亡霊の手。亡い体を求めて。生きた魂を求めて。
夕闇は必死に模索する。この状況から脱出する
糸口を。垂らされた糸はどこに。
「お仲間になるつもりは無いよ」
夕闇は苦笑するしかなかった。