媒体する悪鬼の蛇
「それは数秒後の貴方よ」
不意に夕闇の声が男の耳にこだまする。男はハッと我に返り、言葉の意味を理解したのか
ガタガタと体を震わせる。
「たっ助け........」
「貴方に残された選択は二つ」
男の声をかきけすように夕闇はたんたんと言葉を紡ぐ。あくまで主導権はこちらにあるのだと
いうことを分からせる為。
「死ぬか、生かされるか」
夕闇はいつの間にか目の前に来ている。その事に気づかない程衰弱していた。
男に残された時間は約十秒。
もはや、どうする事も出来ない。男は観念するしかなかった。
「五秒いないに答えなさい、それ以上は待たない」
男の答えはもうすでに決まっていた。
「死ね」
突如、男の体が螺旋状にねじれる。
男は小さなうめき声をあげながら、遺言のような言葉を吐き捨てる。
「俺は誰にも生かされねぇ、死にもしねぇ、そんでもってテメェは気に入らねぇ、だから、
“こうする”事にした」
男の顔はねじれた体に飲み込まれた。
ゴムのように伸び縮みする体。やがて、体はボール状にとどまり始める。間もなくしてボールの内側から無数の手足が伸びてきた。
「........今まで喰らった魂と無理やり融合したわね」
もう人間でも妖怪でもない。人間と妖怪と生き物が混合した何か。助ける事はもはや不可能。水の中で混ざりあった絵の具の色を分ける事が
出来ないように。
もうすぐ火山が噴火する。このままでは夕闇は噴火に巻き込まれる。しかし、これを放っておけば大量の怨念が生まれてしまう。そうなれば
町は、見るもおぞましい結果を迎える事になる。
「これらを全て消すには相当な時間がかかる
素手の私では、噴火に間に合わない」
時間は刻一刻と迫っている。
噴火まで残り三十分。