良かったね
「貴方は強いわ、そんじょそこらの妖怪や
霊力を持った人間では歯が立たない程に」
夕闇は真剣な眼差しを男に送る。
「でも、強いだけじゃあ強敵とは程遠いわ」
水で滲んだ痛々しい血まみれの手のひらを
空中で横に振り、男を否定する。言われた男は
悔しみを込めた眼で睨みつけている。しかし
男は現状、瀕死の体調で夕闇はまだまだ元気。
何も言わずとも、状況が夕闇の勝利をおしえているのだ。
男は右手でそばの草をむしりとる。むしりとられた草は避ける技術を持ち合わせていなかった。だから身をちぎられる。
自分はむしる側だ。本来むしられるのはお前達の方だ。むしって、ちぎってゴミのように捨てる。それが当たり前だと思っていた。
目の前の人間にやられるまでは。
「糞が!! テメェぶお!?」
喋っている最中に手のひらサイズの小石が男の額をコンッと小突く。額はジンジンと痛みを
受け入れる。
「こんな攻撃に当たる位にまで弱ってるんだから、素直に負けを認めなさい」
夕闇は呆れていた。その気になればいつでも
敵をほふりさる事ができるこの状況で
まだ足掻こうとするのかと。
どのみち、もう終わりなのだ。体に熱が十分に
伝わってしまった時点で。夕闇はその事を十分に知っている。おそらく、そろそろだろうと
夕闇は悟る。
「が!? ごれ........は!!??」
人間の体は非常にデリケート。それは明白。
男の顔に神経が浮き始める。フラフラとバランスを崩し倒れこむ男。
その様子を冷たい目で見下す夕闇。
夕闇は哀れとは思わない。当然の報いだと知っているからだ。身に余る程の自尊心、故に己のわがままを他に押し付け、沢山傷つけた。
度を越した暴力は必ず、自身を追い込むのだ。
それほどの事をしたのだ。この男は。
のたうち回る男。男は苦痛の咆哮を野に撃つ。
そして悲痛な叫びに山がこだまを返す。
そして男の体は蠢き始める。
「がああアアア!? あが!? が!!」
ボンッという破裂音が鳴った。
腕の皮膚がドーム状にふくらみ破裂したのだ。
男の目が充血していく。身体中の血管がボコボコと虫が侵入していくように蠢き、皮膚は限界を迎え、どんどん血吹いていく。そして男の体
は風船のように広がりはじめ。
やがて
「―――」
「物は温めると膨張していく、もしも体内の
血液がほぼ一瞬で沸騰してしまったら........
想像するのは容易な筈よ」
「え?」
男は自分の身体中をヒタヒタと触る。
今、確かに自分は........。汗が止まらない。何が
起こったか分からない。全て表情に出ている。
訳が分からぬ男は思考が一瞬停止した。