達成した約束
「なっなにを!!」
「まぁ、見てなさい、見物よ」
夕闇は歩きざまに手をプラプラ振りながら向かっていく。ここから小川まではそう遠くない。せいぜい五分といった所だろう。男は熱で某とする頭の中で必死に思考を育てる。
すると、戦う前に夕闇が小川に手を入れていた事を思い出した。
一体あの時何をしていた? 川が沸騰?
何故そのような事を? 疑問は次から次へと
泡のように出ては消えてを繰り返す。そんな時
「さあて、そんじゃあ夕闇ちゃん伝説の幕開けよ」
両手を小川にドップリ浸ける。固まった血は溶けて水中に赤い硝煙をもくもくと上げた。
小川全体が沸騰するのにおよそ三分。目的が
起こるまでそれから五分。合計八分。
敵が体調を回復するまではおよそ三十分。
余裕だった。
そしてあっという間に三分は訪れた。小川は
ボコボコと泡を吹き始める。
そして、四分が経過。辺りに地響きが唸る。
「なんだ! 何が起こってる!?」
男は動揺に捕らわれていた。
これから起こる事を知れば動揺は絶望に変わる
だろうに。
そして、一分が経った。
ドオオオオオオン!!!!!
神の怒りか、それとも悪魔の咆哮か。
古代の人々、動物達はそれに成す術もなく大量虐殺を受け入れるしかなかった。
そう、噴火だ。
火山は噴火する際、ガスと熱、そして大量の
水蒸気を噴出して起こる。
そして噴火する原因は地中が熱せられて対流を起こし、地底の熱土が上へ上と押し上げられて起こるのだ。
夕闇がやった事はこのような手順。
まず小川を沸騰させる。次に山の原水全体を沸騰。わずかな対流が起こる。無論それだけでは
噴火など不可能。しかしあらかじめ夕闇は
「山火事って怖いわよね~、それに山の天気って結構変わりやすいのよね~」
「山火事? 天気?」
ポツ
山を濁った雲が覆っていく。雨だ。それも特大の。
「 雨雲なんて無かったのに........熱っ!? 」
雨が異様に熱い。皮膚に触れた箇所が一瞬で赤
くなった。男はフラフラと木陰に逃げ込む。
しかし男には分からなかった。夕闇は天気が変わると何故分かったのか。
「当然よ、私が呼んだんだもん」
夕闇は当然と言わんばかりに言葉を紡ぐ。
男はさらに理解不能の迷路に迷いこむ。
「だ、か、ら、山火事よ!山火事!」
「山火事?」
夕闇はここに来る前に森林を焼いた。しかし
焼くことが目的だった訳ではない。本当の目的は空気を乾燥させる事が本当の目的だった。
上空の空気は乾燥すると乱気流を連れてくる。
その乱気流は雨雲を連れてくる。雷も一緒に。
「って事よ!」
そして、その雨はある一定の距離まで降下する
と熱を帯び始める。これは夕闇の力で作った領域。そして山を雨熱で更に温める。蒸気も同時に発生するのでさらに熱を帯びる。そして止めの家紋だ。
「家紋?」
「私達一族の家紋は簡単に言うなら許可証
のようなものなの、一時的に神力を借りるね」
ちなみ今回は木花咲夜姫様だ。
「ご理解いただけたかしら、野良蛇さん」
男は某然としていた。
山は大きく鳴動する。