飛び交う刃
「気にいらねぇなぁ!」
男は口角を上げ、不満げに吐きすてた。
眼は威圧的な視線を放っており
すでに男の顔から笑みは消滅している。
「女一人で、俺をなんとか出来ると?」
刀の切っ先を夕闇に向け、さらに威圧感が増す。
しかし、夕闇が怯むことはない。
ジリジリと距離を詰めようとする敵に対して
警戒をゆるめる暇など無いにひとしい。
夕闇には武器が無い。
これが、夕闇にとって最大の痛手だった。
だが、それだけで負けるとは断定が早い。
夕闇はとにかく考える。勝つまで。死ぬまで。
「さあ、どうかしら」
今は逃げよう。その代わり、この近くで。
今はとにかく時間を。これが瞬考の答えだ。
しかし
逃げようにも、この状況。
睨みあい。両者とも、うかつに動けない。
男は柄をにぎる手をゆるめ、臨戦体勢。
夕闇は身をかがめ、的をちいさくする。
「そうだよ」
男の顔が至近距離にうつる。
刀の間合い。斬られる。早い。
思考の弾丸が過ぎ去っていく。
刹那
月光を反射する
きらびやかな一閃が、首めがけて走る。
夕闇は白刃の下を紙一重にくぐり抜ける。
ヒュンという音とともに刃が空を斬る。
振り向きざまの飛び膝蹴り。
男は左腕で防ぐ。
その左腕に両足で蹴りを入れ、後方へ飛ぶ。
「........ちっときついわね、これは」
斬られた赤髪が宙を舞い、地に落ちた。