熱のち蛇
「あと三分」
夕闇の心は緊張と焦りに蝕まれていた。
小川に浸した右手の冷たさを忘れてしまう程に。
しかして
その三分が満了に近づくにつれ
小川の水はボコボコと泡を吹き出す。
「何してんだ? お前」
瞬間
緊張と焦りは心から消し飛び
一瞬の空白があたまを支配した。
夕闇は視線を声主のほうに向ける。
そこに立っていたのは、紫色の着物に身を包む
背の高い短髪の男。
男の風貌は見るからに不気味そのもの。
屈んでいるとはいえ
夕闇より二頭身は高いその長身が
黒い巨人を連想させる。
だが、夕闇は男の風貌よりも
その男が手に持つ武器に注目した。
「その刀......」
何かを言おうとした刹那の時
鞘から刀身が消えていた。
バシャッ
小川の水が跳ねた。鋭い斬撃を避けるように。
「へぇ」
男は少し感心したような態度で夕闇を睨む。
危なかった。手を斬られる所だった。
瞬時に夕闇はそう理解した。
そして己の反射神経にただただ感謝した。
「誰?」
夕闇も負けじと睨みをきかし、重く問うた。
「人に名前を聞くときは........」
カチャン
「なっ!」
岩、草、木々が二つに裂けるように分かれる。
「まず、自分から名乗りな........お嬢ちゃん」