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果たして
山の冷たい風が朝の頬をそっと撫でた。
「んっ......ここは......ああ、そうか」
どうやら木陰で休んでいる内に寝てしまったようだ。
「敵は......いないか」
朝は左右をキョロキョロと流し目で確認した後
敵がいない事に安心し、そっと胸を撫でおろした。
「さてっと」
いつまでもここには居られないと思った朝は
木にもたれ掛かっている自分の体を起こそうと
体に力を入れる。
しかし
「痛ッ!!......ああ、そうだったそうだった」
朝の左腕は流血は止まっているものの、傷は深い。
無理に力を加えれば
いつ傷口が開いてもおかしくない状態だった。
なんとか左腕を庇いながら
右腕と下半身だけの力で立ち上がる。
しかし全身に蓄積されたダメージが
朝の意識を朦朧とさせた。
視界が歪む。しかし歩けない程じゃない。
「ん? 煙?......山火事じゃあ.......無さそうだな」
ニヤリと笑い、何かを察した朝。
「待ってろよ、夕姉!」
朝は左腕の傷を押さえながら
フラつく頼りない足取りで黒煙の立つ丘へ向かった。