二人を待つ
深い霧に包まれた広地。そこに佇む影が一人。
「あらあら、放火なんていけない子ねぇ」
ひんやりとした濃霧の向こうにいるのは
紺のローブで身を包んだ女性。顔は外から見えぬようフードを深々と被っている。
「でもそれで、何の役に立つのかしらぁ」
女は胸の少しまえで浮いている鏡に向かって
余裕の笑みを含んだ無駄と言わんばかりの
言葉を放った。
浮いた鏡身には森を燃やしている夕闇の姿が
監視カメラのように写っている。
「ご当主様はこちらで手一杯、無駄よ」
女は鏡をローブの内側にしまう。
そして先の見えない霧の向こうへ姿を消した。
◆▼◆▼◆▼◆▼◆▼◆▼◆▼◆▼◆▼◆▼◆
灰と炭しか無い森だった場所。
そこをポサポサと踏み鳴らし進む夕闇。
彼女は先程役目を終え、次の行動に移っていた。
「......やり過ぎたかも」
夕闇は歩んでいる足を止め
周りをキョロキョロと見渡し、苦笑を露にする。
「でもまぁ......いいか」
地面の灰砂を右手でひとすくい。
灰はまだほのかな熱を帯びており少し温かい。
そしてすくった右手の上に積もる小さな灰山を
風にさらし、灰風を野に舞わせた。
「これで私の役目は終わり、後は夜と朝だけ」
夕闇は止めた足を再び前に運ぶ。
しかし偶然にもその先には......。