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火傷の森
闇色に染まった木々が風にあやされている。
千切れた黒葉が散り散りと風に乗る光景は
まるで黒い火花だ。
「火傷しないうちに行きますか」
小川は不気味な森の境界を表すかのように
木々の間を清々と流れている。
まるで三途の川への第一歩と言わんばかりに。
嫌な森だ。
私は小川の向こう岸へジャンプし、そのまま
向こうの雑木に足を運ぶ。念のためだ。
万が一二人のどちらかがここを通った時に備えて。
私はそこらの尖った小石を拾い、雑木の中央に
誘意家の家紋を削り描いた。
桜の花びらを巴状に。
花びらの間に三つの勾玉を。
そして勾玉の穴から中央に集中する直線。
相変わらず変わった紋様だ。
おそらく、というより確実に
全国を探しても類似する物は無いだろう。
そんな事を心中で呟きながら私は小川へ戻り
小川の上流の方へ視線を向ける。
「上なら......見渡せるかしら」
しかし暗いうえに木々草々が生い茂る森林。
景色はともかく人を探すにはあまり適していない。
「“上からは”......ね」
思わず笑みがこぼれる。
私は躊躇なく小川の上流へと足を運んだ。