緋藍の希望
「おかしい......」
妙な形を成した樹木
草木一本一本から感じる微弱な妖気
「確かに一致している」
出発前に花月から聞いていた境界山の特徴と
一致している
しかし
「妙な気配を感じる」
背中を手でなぞられるような際どい何かが
夕闇の鋭敏な第六感を刺激した
「急ごうにもこの山の全体図は分からない」
夕闇の頬から一滴の汗が滴り落ちる
「夜は大丈夫、でも朝は......」
夕闇は歯噛みした
「......いや......今は信じよう......信じるしかない」
赤色の瞳に小さな希望と焦りの炎が点火した
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「ハァハァ」
「なぁ、教えてくれよ」
鈍い銀光を放つ刃が朝の頭上から振り降ろされる
「ッ!」
咄嗟に横へ横転し難を逃れる朝
だったが
「なめてんのか?」
「ッ! はや......」
ドゴッ
下腹部に走る鈍い痛みと衝撃が
朝の意識を朧に追いやる
「かはッ!!」
口から出た多量の血粒が頭上の月を端から
染めるように宙を舞う
ドサッ
ゴロゴロゴロゴロ
攻撃を受けた朝の体はくの字に曲がり
遥か後方まで吹っ飛び、樽のように転がる
「蹴っ! ゲホッ!!ゲホッ!!」
蹴られた
朝の頭に最初に浮かんだ言葉はそれだった
「ハァハァ 蹴られただけで......なんていりょ......」
「良い度胸だなぁ、敵前で休むとは!」
白刃が朝の眉間を
「ぐっ!!」
ドズッ
貫く
「ハァハァハァ!!」
事は無かった
刃は地面に勢いよく突き刺さっていた
「ああ!!」
「おおっとぉ!」
朝は敵の顔めがけて渾身の横蹴りを放つが
虚しく空を横切るだけだった
「へぇ~、根性あんじゃねぇか......お嬢様ちゃん!」
「ハァハァハァ」
朝の碧色の瞳は輝きを失っていない
希望があるから
「ハァハァ、まだまだぁ!!!」
その希望が来るまで
「へっ! 威勢だけは......」
「ハァハァ」
残り
「認めてやるよぉ!!」