邪蛇と赤眼
「誰だ!!」
月明かりに照らされた蛇眼の瞳が
向こうの雑木をにらみ殺すように見つめる。
「そこに居るのは分かっている!姿を現せ!」
激しい怒声を林に投げつけるが
いっこうに何者も出てくる気配は無い。
「そうかい、そんなに出てくるのが嫌なら......」
カチャッ
血塗られた刀の鍔が虚空に広響し
妖しい紫色の炎が刀身ににじむ
「こちらから」
大地が泣き崩れる
大気が怯え退く
森が狂い悶える
「出向いてやる!!!」
森を横から剣一閃
瞬間
森だった場所は切り株の広場へと姿を変える
「ずいぶんと血の気が多いわねぇ」
大量に舞う土煙の奥で二つの赤眼が覗いている
「生憎俺は短気でねぇ、お前みたいな奴は......」
その刀身は赤い血を好む
幾夜幾夜と鳴き止やまない悲鳴を
その身に染みこませて
「こうするのが...」
三千世界を切り伏せる
「一番なんだよ」
「 これは......物体の概念そのものを......」
「ほう、俺の術理を理解するか小娘」
巨岩巨木は薄くスライスされ
辺り一面、歪な形状の地形に変化している。
「それ、危ないわねぇ」
「......避けたか......小娘よ」
目を細め、露骨に不愉快と言わんばかりの
態度と視線を送る邪眼の男
「あと数秒、遅ければアウトだったわ」
「そうか、ならば今度こそ......」
再び刃に力がこもる
「残念、今夜はここまでよ」
赤眼の女は後ろを向き、歩を進める
「貴様! 逃げる気か!!」
「これから貴方の前に三人の死神が現れる
その死神達は貴方に素敵なプレゼントをくれるわ」
歩を止め、背中越しに予言めいた言葉を送る
赤眼の女
「プレゼント?」
「そう、死と言うプレゼントをね」
赤眼の女は森の奥に消えていった。
「......ふん」
刃に宿った力は霧散し
腰の鞘に納められた
「いけ好かねぇ女だ!」
男は不機嫌な態度で言葉を吐き捨てると
女とは反対側の森に歩を進め
その場を去った。
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「夜~~!おんぶ~~~!!」
夜姉のななめうしろで夕姉が駄々をこねて
山への進行を妨げている。本当に困った姉だ。
「........」
夜姉は無視して歩を進めている。
いつもの事だ。もう慣れてる。
これから恐ろしい怪物を退治しに行くってのに緊張感の欠片一つ無い。
本当、これさえ無ければ優秀な姉なのになぁといつも頭を悩ませる。
「夕姉!ほら行くよ!」
「やだぁ!!家でゴロゴロしてる~~!!」
手足をバタつかせる夕闇をズリズリと引きずり
本当に......これさえ無ければ優秀なのに......。
と、心底残念に思う朝だった。