行きも帰りも地獄
妖しい紫光を放つ凶刃は
絶望への叫嘆ともとれるような
重苦しい咆哮を周囲に轟かせた
木々が忙しなくざわめき
大気は怯えるように揺れている。
「...............マジ?」
夕闇は目の前の光景に
ただただ苦悶の表情を浮かべていた。
◆▼◆▼◆▼ 遡ること一時間前 ▼◆▼◆▼◆
「三人共、
最初の仕事です、すぐに準備をなさい」
夕闇達の母親【花月】が部屋の襖をスッと開け
居間にいる夕闇達を呼びかけた。
夜は本を読み
夕闇は畳にダラリと寝そべり
朝はテレビを見て爆笑している。
「もうちょっと後で......」
朝が背中越しに遅延を要求するするが
「聞こえなかったかしら」
花月は後ろから朝の左肩を力強く握り締め
圧倒的な存在感で物言えぬ空間を作り出す。
瞬間、朝の顔から笑顔は消え去り
冷や汗が滝のように流れ
顔は恐怖で塗り固められている。
蛇に睨まれた蛙である。
「分・かっ・た・わ・ね?」
目を横に流し
恐る恐る振り向くと ......母は笑っていた
しかし紫色の目は一切笑っていない
行かなければ殺すと目が訴えていた。
「はい、是非とも行かせて下さいお母様」
朝は目の前の大魔王に忠誠を誓ってしまった。
「あらぁ、頼もしいわぁ♪
他の二人も異論無いわねぇ?」
弟の心を睨み殺した紫色の瞳が夕闇と夜の方へ
流れ移る。
「......私はいつでも」
本をパタンと閉じ
花月に出撃可能を伝える夜
「わっ私は......」
不安気に言葉を繋ごうとした夕闇だったが
「ん?」
後頭部に視線の槍が突き刺さる。
重さ三百キロの言葉が乗しかかる。
女の勘がヤバいと言っている。
「なっ...な~んて、あはは......」
夕闇は目にも止まらぬ速さで飛び起き
後頭部を右手で掻きながら
冗談だと言い張る。
「なら良かったわぁ~貴方達は優秀ねぇ
まぁ断ろうものなら力づくで、だけどねぇ」
物騒な事を言っている花月の顔は
混じりっけの無い純粋な笑顔だった。
だがしかし
その笑顔が二人の恐怖を一層駆り立てた。
「じゃあ時間も無いしスパッと説明するわぁ」
花月は笑顔のまま三人に説明を始めた
「場所は家から北東にある山よぉ、
名前は
【境界山】《きょうかいせん》
今から三人はそこで暴れている
【赤沙汰ノ嘶鬼】《あかさたのいななき》
を退治してもらいます
あまり高くない山だからすぐに見つかるわぁ」
だったら自分達で行けよ......
そう思う夜以外の二人だった。
「じゃあ早速、行ってらっしゃい♪」
嫌だぁ......
そう思う夜以外の二人だった。
「無事帰って来れたらぁ♪お母さんのぉ♪
コスプレ衣装を披露してあげるわぁ♪」
いい年して何を......
そう思う娘達三人だった。
三人は怪我するか野宿するか
思わぬ所で決断を迫られたのだった。