存在意義
「夢?」
夕闇は左眉を上へ吊り上げ疑問を表情に
張り付かせて問い返す。
「はい、夢です」
母は即座に何の感情も込もっていない無機質な
返答を夕闇に送り返した。
「......見ました」
不意に夜が進展しない二人の会話を遮るように
言葉を突き刺す。
「朝はどうですか?」
静かな迫力を宿した紫色の瞳を朝の碧色の瞳に
じっと合わせ、問い詰めるように睨む母
「あ......と......分から...ないです......」
朝は母の迫力に負け、
すぐに視線を反らして俯いている。
「貴方はどうですか? 夕闇」
朝と同じように夕闇にも鋭い視線を向ける母
それに対して夕闇は、少し動揺しながらも
「夢......なのか分からないですが......
恐らく...見た......と思います」
と、顔を斜め下へ傾けながら不安そうに
言葉を発する夕闇。
「そうですか......分かりました......では
本題へ移りましょう」
母はそっと目を閉じ、何かを覚悟するように
眉間を強張らせている。
朝と夕闇は普段見ぬ母のただならぬ雰囲気に
そっと唾を飲んだ。一方の夜は明鏡止水
静寂に包まれた水面の如く微動だにしていない
「貴方達は一族の運命を背負いました」
母の目は瞬時に力強く開き
紫色の瞳を妖しく輝やかせている
「運......命....?」
「そうです、我々誘意一族の運命です」
母は震える左拳を撫でるように右手を被せて
身を落ち着かせ、三人を見ている。
「逃れる事は許されません、何故ならば
我々の運命と存在意義そのものだからです。
我々に自由は存在しないのです。」
凍てついた空気は消え去った、代わりに
母の纏う燃え盛る業火の如き存在感に
部屋が一瞬で包まれた。
「貴方達は--」
母が凄まじい気迫のまま私達に言った事は
簡単に言うならこうだ
一つ
私達はこの町と人々を化け物や怪物から
守らなければならない事
二つ
怪物が出現した場合
私達は討伐を最優先に行動する事
三つ
私達に人程の自由と幸福はあり得ない事
そして
それを拒否する権限と選択肢は無い事だった。