起床
重い瞼がゆっくりと開いてゆく。
「ん......」
夕闇は窓ガラスを貫く陽光を思わず手で遮り
まだ薄目がちのぼやけた視界で辺りを見回した
徐々にはっきりと原型を留めていく視界の中で
見慣れた景色がその赤色の瞳の中に写っていく
「......は?」
視界に映ったのは自分の部屋だった。
「夕姉ー!」
目の前の光景に困惑を隠せず
その場に立ち尽くしている夕闇の耳に
聞き慣れた声がこだまする。
「朝!?」
全く状況を読めていない夕闇に次々と
追い討ちをかけるように新たな情報が
夕闇の頭を占めていく。
「母さんが呼んでるから今すぐ居間に来てー」
朝は用件を伝えるとトタトタと廊下を
踏み鳴らし居間の方へ行ってしまった。
「......どういう事?」
まるで狐に化かされたような気分のまま
とりあえず部屋を出ようとドアの方へ足を運ぶ
「何だったの......あれは......」
ドアを開けるとそこにはいつも通りの風景
L字型の廊下を曲がると居間はすぐそこにある
少し警戒しながら廊下を進むが
何も起こらぬまま居間へ辿り着く
居間への襖を開けると、そこには三人いた
母と夜、そして朝だ
「おはよう~夕ちゃん」
母はゆったりとした口調で挨拶を交わすが
目はいつになく真剣で鋭い
その姿に少し驚くが、襖を締め
空いている座布団の上に正座する夕闇。
「お話があります」
空気が凍てついく
ここにいる全員それを感じているだろう
決して冗談や悪戯が通じる空間では無いと
「夢を見たでしょう?」
開口一番、母からの第一声がそれだった。