主として姉として
「ひゃあ!!!」
思わず大声を発した夜津葉。
途端に後ろに腰から崩れ尻餅を着き
慌てて両断された足を恐る恐る見るとその足は
「え?」
血など一滴も出ていない。
傷一つ無い美しい真っ白な肌の足が
普段と変わらぬ様子で何事も無かったかの様に
ちゃんとそこにあった。
「???」
さっき確かに...
夜津葉は自分の足を念入りに触診し調べる。
だがやはり何も無い。
本来傷を負えば出るはずの赤黒い液体も
ダメージを受ければ出来る筈の傷すらも無い。
「.....」
ああ...そうか
“警告”だったんだ
謎が解けた瞬間
素早く元の体勢に戻り
詫びの言葉を目の前の主に捧げる夜津葉。
「分をわきまえず申し訳ございません夜様」
「...ん」
.....。
夜は後ろを振り向かず
遠くにいる自分の弟の方に視線を飛ばしたまま
返事を返した。
「...」
あれは“警告”だったんだ
【行けば私がそうする】
と言う夜様からの...
凄まじい殺気を足の一ヶ所に当てられたが故に私の本能があの幻を作り出した。
つまり
あれは...文字通り一歩間違えれば
即現実の出来事へと変わっていたであろう
未来の私の映像だったんだ。
あの“警告”は夜様からの無言のメッセージ
であると同時に
私自身からの“警告”だったんだ。
先程まで顔が若干赤みを帯びる程興奮していた
夜津葉の顔はもうすっかりなりを潜め
どんよりと青ざめている。
そして先程の幻が現実になっていたかも
しれないという底無しの恐怖が夜津葉の体を
ガタガタと震わせている。
「.....」
はぁ.....やり過ぎたな
夜は心の底でため息を漏らし反省していた。
「...夜津葉」
「はっ!!」
いつもの口調で名前を呼んだにもかかわらず
一瞬体をビクッと電気が走ったかの様に震わせ
空元気な受け言を返した夜津葉。
その様子を見て少し気にかけていた夜だったが
悟られぬ様、表情は冷氷の如く冷たく
動作は不動の岩石の様に微動だにしなかった。
そして
その表情のまま静かに語るように話した
「...加勢には行くな」
「了解しました...しかし何故でしょう?」
夜の発言に承諾しつつも理由を求める夜津葉
「.....」
夜は目を閉じ黙っている
「もっ申し訳.....」
慌てて非礼を詫びようとする部下の言葉を
遮るように主は静かに重く力強く言葉を発した
「力を御しきれん者に戦う資格は無い」
「....................納得致しました夜様、
改めて先程の非礼をお詫び申し上げます」
夜の言葉を聞いた夜津葉は瞬時に何かを悟ると
恐怖が一瞬にして消え去り
顔を下へ傾け真剣味を帯びた口調で
静かに非礼を詫びた。
「.....それが“私達”の責任だ」
「.........存じております...夜様」
夜津葉は地面に着けている自分の拳を
グッと力を込めて握り締めた。