その足に想いを乗せて
「あと少し」
赤色の瞳の少女は
焦燥と真剣味を帯びた声でボソリと呟く。
オオオオ
「...!」
少女は遥か後方で空気を引き裂く雄叫びを
上げる暴風に一瞬気を散らした。
だが彼女の足が止まる事は無い
自分の“帰り”を必死で待っている弟の為に
その足を止める事は許されないと思ったからだ
「朝...」
待ってて
屋根へ路地へ電柱へと
オリンピック選手顔負けのジャンプを
ひた繰り返し“目的地”へ歩を進める夕闇
だがそれでもまだ目指さんとする“目的地”は
その赤色の瞳に映りはしない
少女はその現状に表情を強張らせ
焦燥と不安を噛み締める
彼女の目指す“目的地”とは
何を隠そう先程出たばかりの我が家である。
彼女は家に代々御神体として奉納してある
自分の武器を取りに行っているのだ。
因みに朝の蔵王も普段は一様に奉納してあるが
母のバレバレの様子から危険を察知した朝は
親達に黙って事前に拝借して来たのだ
彼女の武器は朝の蔵王のように持ち運びの
融通が利かない
故にこのような非常事態は
その身一つでなんとかするか
現在の様に武器を取って来るしか無いのである
「.....」
さっきの爆風...
朝なら死なないにしても怪我が心配だわ
無事だと良いけど
夕闇は高くジャンプした後、空中でチラッと
後方の暴風に視線を向けた
「.....信じてるからね…馬鹿弟」