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前篇 うろなのエクスペリエンス 

4月1日に予定しているエイプリルフール企画の宣伝&準備作品です。

2015年2月13日(金) 

PM7:00


バレンタイン商戦が最高潮に盛り上がり、

すでにいちゃつく恋人たちも増え始めた本番前日の夜。


南うろな駅近くの飲み屋『ほろろん♪』では、

それなりに女っ気があるはずの5人の男共が

何故か野郎ばかりで一つの卓を囲んでいた。




「いやー、渉兄さん、毎日子育てお疲れ様です!

今日はめいいっぱい飲んでくださいね。」

「ありがとう直澄。

ただ明日も土曜特別合同講習があるからな。

ほどほどにしておくよ。」

「・・・しかし教員研修の名目で

小中高の先生集めて特別授業とか良くやるわな。

小学校から文句なかったん、拓さん?」

「基本小学校の先生たちは前向きだったよ、直樹くん。

中学や高校の先生と情報交換したり、

中高でやっている内容を元生徒たちに教えるってことで、

恥かかないように気合を入れて勉強しなおしてるし。」

「どっちかっていうとこういうのは高校の先生の方が

嫌がるんじゃないんですか?

玩具屋くん、年増の彼女からなんか聞いてませんか?」

「倫子さんは年増じゃないって言ってるだろ、このドシス鹿島!!

まあ、確かに『学歴を鼻にかけて小中の先生をバカにしたり、

小学校の内容なんて低レベルで教える価値がない、

なんてことを平気で言う教員がいるのは頭が痛い。』って愚痴ってたな。

でもその後笑って

『土曜に引っ張り出された八つ当たりをしようと

見た目組しやすそうな清水先生や果穂先生に

指導方法や教育理論の話なんかを身の程知らずにふっかけて、

完膚なきまでに叩きのめされた先生の中には、

少しずつでも自分を変えていこうとしている人が出てきているから、

それで十分かもね。』って言ってたし。

俺は運営をちょっと手伝っただけで、

難しいことは全然分かんないけど、

交流なかった先生たちが一緒になってやったのは、

やっぱり意味はあったんじゃないかな?」



会話からは先生同士の慰労会にも聞こえるが、

半数以上はうろな町の商業系リーダーたちである。


清水渉、小林拓人、高原直樹、鹿島茂、高原直澄。

彼らは『うろな町の教育を考える会』において

中心的な役割を担っている、うろなの若き旗手たちなのである。




「・・・これについてはこのアホに賛成だな。

職場体験なんかを頼みに来る時でも、

中学に比べて高校の教員の方が『何でおれが営業みたいなことを』

なんて愚か極まりないプライドを持ったままくる連中が多かったが、

最近大分ましになったしな。

教育なんて自分の専門の教科だけに拘ったって意味はないし、

子どもを協力して育てることの意義を再確認した連中が少しでも増えたなら、

組織の意識変革へのきっかけとしては十分だ。

・・・でなきゃ、ただ同然で経営論の講師役とかさせられた元が取れん。

鹿島もそうだろ?」

「ふふふ、私としては企業の側にも教育力っていうのは十分あるんですよ、

っていうのを学校にアピールできたから、決して悪くはないんですけどね。

マネジメントの話とかを通して管理職の先生たちとのパイプも

更に太くなりましたし、

この辺りが学のないどこかの店主には真似のできない部分でしょうが。

とはいえ、逆にショッピングモールの研修で取り入れたい要素も多かったですし、

準備・運営に奔走した連携担当さんは本当に頑張っていたと思いますよ。」

「ホント、講義は地元の若い名士たちに頼んで講師代を浮かせて、

その分を研修後の懇親会費に当てたりとか、

清水先生の差配は未だ健在だね。

もちろん現担当さんがそもそもの準備のために走り回ってくれたおかけだよ。」

「うー、みんな褒めるんならストレートに褒めてよ!

兄貴や鹿島はいいとして、小林先生まで微妙にへこまさないでくださいよ!!」

「まあまあ、とにかくみんな新連携担当の頑張りには感謝しているってことで、

それでいいんじゃないか、直澄。

グラス空いているみたいだし、何か頼むか?」

「もー、今日は目一杯飲みますよ!

お姉さん、生ビール、ピッチャーで持ってきてください!!」



年上たちに遊ばれ気味の直澄は会話の流れを変えようと、

景気づけに新たな飲み物を注文したのだった。



ここまでの会話を聞いていると

『教育を考える会の会合か何か?』

と勘違いしてしまいそうだが、

メンバー的にたまたまそういう話になっただけであり、

彼らは単に

『女性陣に追い出された哀れな男たち』

に実はすぎないのである。



「あー、ビールはやっぱりおいしいねー!

でも果穂先生たちヒドイよね。

『今日は男子禁制の清水家大女子会だから、

男共はどこかに飲みにでもいってらっしゃい!』

って、冷たいと思いませんか?」

「まあ、イベントの一つとして

僕たちのチョコをみんなで作ってくれるっていうのも

組み込まれているみたいだし、

ありがたいと思っていいんじゃないかな?

直澄君は明日田中先生と講習後デートなんでしょ?」

「へへへ、そうなんですよ。

鹿島、お前の所のバレンタインデーフェアに顔だして

やるんだから、有難く思えよ!!」

「商店街にちょうどいいデート先がないだけでしょう、この酔っ払い。

まあ、今回ショッピングモールでは

全館挙げてのバレンタインフェアの一環として、

スーパーさんから紹介いただいた海外の有名メーカー商品vs

商店街開発の地元チョコ

の企画なんかもありますから、その激励も兼ねているんでしょうけど。

店長さんはいらっしゃるんですか?」

「・・・飲み屋でまで役職名で呼ぶな、性悪部長。

一応メーカーの担当者にあいさつせにゃならんし、

うちを通して大量に仕入れてもらってるからな。

・・・あと、直澄だけでなく、

親父も商店街の知り合いと飲みに行くとかいうんで、

蒼華が『なら私が晩御飯を!』とか言い出したから、

諦めてお前んとこのレストランに予約を入れておいたよ。」

「ははは、あなたも可愛い従妹さんには形無しですね。

小林先生たちもきてくださるんですよね?」

「まあ、色々催し物もあるみたいで娘たちも楽しみに

しているからね。

とはいえ、今日遅くまで騒ぐんだろうから、

明日の講習後も果穂さんに元気が残っていたらだけど。

渉君はどうするんだい?」

「うちも司さんや子供たちの様子次第ですね。

結局半日子守を変わってもらっているわけですから、

講習後は司さんにゆっくりしてほしいんですが、

『果菜や美果達に一緒に行こうと言われてるしな。』

と言ってましたから、うちの子も連れて一緒にって

なる気もしますね。

なあ、鹿島。明日の夕方萌ちゃんの予定だけど。」

「あんなチンピラ野郎に萌はやらん!!」

「・・・ダメだ、こっちもスイッチ入っちまったみたいだ。

合田と妹とのデートについては曖昧なままにしておいてやってくれ。

武士の情けだ。」

「ははは、鹿島も彼女が出来たみたいだし、

萌ちゃんについてはそろそろ年貢の納め時なのかもな。

そういえば男子禁制っていうけど、

果穂先生も流石に桜也はOKしたんだね。」

「みんなで赤ちゃんを可愛がるっていうのも

果穂さん曰く今回のメインの一つらしいから。

直澄くんには

『田中先生が赤ちゃん欲しいって思ってくれたら、

イイとは思わない♪』

みたいな説得の仕方してたみたいだし。

ただ果穂さん、本当は男の子も欲しかったみたいだから、

あんまりやりすぎなきゃいいけど。」

「・・・本来ハーレムみたいなもんなはずだが、

全く羨ましいと思えないのはなんでだ。」



そう、現在清水家において

清水司、小林果穂の両ママを中心に、

田中倫子、鹿島萌、高原蒼華、

小林果菜、小林美果、清水桃香

という清水家に縁のある幅広い年齢層の女性陣

(+清水桜也)

が楽しいパーティ&女子トークの真っ最中なのである。



現在居酒屋に集まった5人は、

彼女たちの家族or彼氏たちであり、

清水家に彼女らを送り届けた所、

主催者である果穂にまとめて体よく追い払われたのであった。

もちろん明日のバレンタインデーには

彼女たちからチョコがもらえることが

彼らは約束されており、

世の独り身男性たちからは

「幸せ自慢してんじゃねえ!!!」

と怨嗟の叫びを浴びせられるような立場にあるが、

どこか苦笑いしたくなるのは、

男の虚しいプライドか、

それとも結局女性には勝てないという真理への諦観か。


ちなみに直樹達の懸念の通り、

この日以降果穂による桜也可愛がりはエスカレートの一途を辿り、

それが彼の将来に暗い?影を落とすのかどうかについては、

神のみぞ知る所である。


ともかく清水家の女性陣の盛り上がりほどでないにせよ、

居酒屋での男たちの駄弁り飲みも、

段々とエンジンがかかってきたのであった。






PM10:00



いい感じにお酒が回ってきて、

清水・小林の両名は最近の中学校の話題について

熱く盛り上がっていたが、

直澄・鹿島は完全にへべれけになっており、

かみ合ってるようでかみ合っていないツッコミを、

二人の会話に入れ続けていた。



「渉君、それにしても、あの吉島くん達が

全国大会で賞を取ったり、

うろな高校の合格圏に入ってるっていうのは、

小学校教員の間でも話題沸騰ですよ。

『あのアホ共がそんなに頑張ってるなんて・・・』、

と泣き出した先生もいるらしいですし。」


「うろ中三アホ軍団サイコー!!」


「それがですね、拓人先生。

大学入試の改革に合わせて、

部活動とか社会貢献とかもうろな高校で

今まで以上に評価してくれるってことになって、

うちの文芸部を中心に中3の有志で文化祭用の劇をしよう

って話を立ち上げたんですよ。

アホ軍団を全員そこに突っ込んで、

実際に文化祭でやった後、

昨年やったみたいに病院でも慰問みたいな形でやったんですよ。

そしたら教育委員会とかマスコミも食いついてくれたんで、

小学校でやらせてもらったり、

ついでにコンクール系に出したら、

作品賞とか脚本賞とか幸運にも取れちゃったんで、

本当に助かりましたよ。

いくらあいつら頑張らせても

テストの点には限界がありますから、

内申点で大幅な下駄を履かせられたのは大きいですよ。

・・・ついでに萌ちゃん達、

文芸部の子たちも軽く安全圏に押し上げられましたし。」


「萌は実力だけでもいけるんだーーーー!!!」


「でも少なくとも、

定期テストでもそれなりの点取らないとダメだっただろうし、

そもそもあの子たちに演技って・・・」


「脳内小学生!!」


「いや、5月くらいでしたっけね?

あいつらが英語のテストの内容についてあまりにアホな解釈を

していて正直心が折れそうになったんですけど、

よくよく考えてみたら中々の発想力だったし、

こいつら『面白ければ』アホだから逆に熱中してくれるんじゃないかって思って。

それでその次の文芸部の活動で部長の萌ちゃんにも相談して、

あいつらのおバカな妄想が実は生徒たちの裏にある社会問題を現していて、

主人公たちがふざけているようで実は大きな問題に立ち向かっていくみたいな、

弾けた脚本をみんなで作ってみたんですよ。」


「萌の才能は本物だーーーーー!!!」


「始めに『うろなエクスペリエンス物語 カマー・ミーツ・カマー』って

タイトルを聞いたときは正直全く意味が分からなかったんだけど、

実際に観劇してみてびっくりしたよ。

萌ちゃん演じる長期間病院に入院していた主人公が久し振りに学校に来てみると、

全く授業についていけなくてふざけてばかりいる

同級生たちの姿を見てびっくりする。

自分はみんなから「可哀想だね」と同情してもらえて

手厚く助けてもらえるんだけど、

彼らが「どうしようもないアホ」として

殆ど学校から見捨てられていることに疑問を持っていく。

そんな彼らの事情を主人公が調べていくと、

実は両親からの非欧米圏からの移民で、

しかもネグレクト気味で英語も日本語も全然わからないから

「エクスペリエンス!」と

授業で習った言葉をただ意味も分からずを叫んでいたとか、

性同一性障害の女の子たちが同性愛で悩んでいて、

それを腐女子の同級生が仲立ちして互いの性質を許しあう展開とか、

これどうやって考え付いたの?」


「カマストーリー!!」


「エクスペリエンスの背景は完全な創作ですけど、

後半はあいつらが本当に言ってたことそのまま現実だったとしてみただけですよ。

いやー、LGBTの話とか本当はかなりナイーブな内容ですし、

事前に親御さんに見せに行ったとき絶対怒られるだろうなと思ったんですが、

全然OKどころか『是非やらせてください』とか言われちゃって。

その後主人公が『アホ軍団』を認めるよう、

彼らも私も決して『アホ』でも『クズ』でも『かわいそう』でもないと

全校生徒の前で

訴えるんですけどまた病気が再発して倒れちゃたのに対して、

『アホ』や『クズ』と呼ばれていた彼らが

主人公の正しさを証明するために奮起して、

成績上位をとるために猛勉強したり、

全国大会進出に向けてもう特訓する下りで、

『演技でもあの子達の頑張る姿が見られるなら』と言われたのには流石に

苦笑しましたけど。

・・・実は一番説得するのが難しかったのは

『主人公(萌ちゃん)が再び病に倒れる』っていう下りに対する

鹿島の反発だったんですよ。

というかこんな下り、俺らが冗談でも書けるわけないし、

萌ちゃん自身があえて書いた部分だったから、

自分が倒れる必要性について萌ちゃんが鹿島を説き伏せる

とかいう変なことになっちゃったし。」


「萌は絶対にもう倒れない!!!」


「それは大変だったね。

でも実際彼らは素晴らしい成績を挙げたり、

全国大会での優勝なんかを遂げて、

周りの評価を一変させるんだけど、

だからと言って変わりなく彼らはその後もふざけ続けていくなんて辺りには、

渉君の哲学を感じるね。

しかもそこから10年間植物状態のまま主人公は眠り続けていたんだけど、

周りが主人公のことも『アホ軍団』の頑張りも

すっかり忘れてしまっていたのに対して、

その間中それぞれの進路に分かれた彼らは病室に集まっては

未だに紙で作った魔法少女ステッキを振り回すなど、

全力でアホなことをしながら

『エクスペリエンス』と叫び続けるという動画を世界に向かって

配信し続けているなんて展開に繋がっていく。

最終的に動画が爆発的にヒットしたことによる広告収入や

そこから派生した募金のお金を集めて、

数十億かかるといわれた難病の特効薬を完成させて

主人公を目覚めさせるんだけど、

周りがすっかり変わってしまったと悲嘆にくれる主人公に対して、

『アホ軍団』は『俺たちは相変わらずカマ友だろ?』と語りかけ、

主人公は『ああ、カマー・ミーツ・カマーっていうのは

実は私たちの出会いのことなんだ。』

と気づいて、

最後にみんなで『エクスペリエンス!』と叫んでエンドロールとか、

いや、もうどこまで深読みしていいのか分からないけど、

とりあえず観客みんなお腹を抱えて笑いながら泣いているし、

すごかったんですよ。」


「それこそうろなのエクスペリエンス!!」


「実はこのお話、ある意味で教育自体というか

『人が成長することはいいことだ』みたいな前提を

全否定している部分とかあるんで、突っ込まれないか心配だったんですけど、

その辺りには目をつぶってもらって、

真面目なテーマをいい意味で笑いに変換しながら、

それでいてちゃんと向き合っていたって

妙に好意的に評価にしてもらえましたね。

でも演技指導とか大変だったんですよ。

リアルなアホ軍団達は本当にただの『アホ』だから、

指示を聞かずに暴走しだすんで、主演の萌ちゃん、

脇を固めてくれた横島、岡本、蒼華ちゃん達

文芸部員のフォローがなかったら成立しなかったですから。

その中でも本当に萌ちゃんの演技には説得力があって、前半クライマックスの

『私はそんなに可哀想ですか?

確かに私は生きようとして多くの人に迷惑をかけてきました。

でもそれはそんなに愚かなことですか?

確かにいつまた倒れて動けなくなるかもしれない私が、

未来ある皆さんにどうこう言うのは馬鹿げているかもしれません。

でもそれはそんなにつまらないことですか?

・・・多分私は彼らと同じ「アホ」なんです。でもそれでいいと思っています。

皆さんも同じ「アホ」じゃないんですか?違いますか?』

って辺りは俺なりに色々意味を込めて提案した台詞なんだけど、萌ちゃんがしゃべるともう、その切実性も真実味も、俺のつまんない策略なんて軽く超えちゃってるんですもん。ホント、彼女はスゴイですよ。」


「萌はアカデミー級だ!!!」


「それはもちろんですよ。

でも吉島くん達の『素』の演技も説得力がありましたし、

現実にテストで彼らは自分の点数を伸ばしたり、優勝まではしていないですが

全国大会まで行ったりしているわけですし、

そっちの意味での『説得力』もすごかったですよ。

そこまで考えていて、この台本を作られたんですか?」


「全てはマナティクトブルース!!」


「いやいや、とてもそこまでは。

まあ、あいつらが勉強するシーンとかは

『これは勉強ではなく、演技だ!』って言い張って、

実際の試験範囲について台詞として覚えさせたりしましたけど、

これがいつもの試験と違って格段に覚えてくれるんで逆に嫌になりましたよ。

ホントにあいつらアホすぎますって。

とはいえ途中からはそこを利用して、再演の時とかは

『脚本の修正な。』っていう名目でその時々のテスト範囲に台詞を変えることで、

テスト対策を無意識的にさせましたけど。

五十嵐達の全国大会出場は本当に偶然で、

いや、本来元々行ってもおかしくない実力があって、

かつ『舞台で見栄えがする必殺サーブ考案しようぜ!』みたいなノリで

冗談のような感じで実現しちゃったのがプラスに働いたみたいで。

一応劇のメンバーでそっちの大会も応援しに行ったんですけど、

全国大会の会場でも『萌萌サーブ!!』とか

『貧にゅ・・・って言うなスマッシュ!!』とか、

平気で叫びだして、もうぐだぐだでしたね。」


「萌の名が全国デビューーーーーー!!!」


「あっはっは。うろな中学校の名は今回の件でかなり

有名になったらしいですけど、

管理職の先生たちがその評判の詳細を聞いたら卒倒するかも

しれませんね。

でも劇の中だけの話にとどまらず、

生徒のその後の成長につなげるっていうのは流石、

策清水の名は伊達じゃないですね。」


「あんたが大将!!」


「実は今回の件で一番思ったのは

やはり生徒たちはすごいなってことだったんです。

萌ちゃんに脚本・主演を任せたのも中1・中2の出席日数が足りないから、

何とかフォローできる実績をと思っていたんですけど、

コンクールで賞までレベルまで引っ張っていってくれたんですから。

多分個人賞とかあったら『主演賞』とか貰えてるレベルだった気がするんで、

『女優とか目指してもいいんじゃないの?』って冗談交じりに言ってみたら、

『こんな素敵な経験をさせてくれた清水先生みたいな先生に

改めてなりたくなりました!』

って、ホント、素で泣きそうになりましよ。

それに吉島たちにもびっくりしたのが、

あいつら観客が感激して泣き笑いしている意味が全然分かっていないんですよ。

もちろん第一にあいつらがアホで、

脚本の複雑なメッセージとか一切理解してないっていうのが

前提にあるんですけど、

分かった上で『どうだ、やってみての感想は?』って聞いたら、

『なんであんな当たり前のことで騒いでいるんだろう』

って言いやがったんですよ。

あれ、こいつらってもしかして、

俺たち教員の言うことを理解してないんじゃなくて、

そんなつまんないこととっくに超越しちゃってるだけなんじゃないかって。

よくよく考えてみると時々吉島と東野が話している農業の話って、

もう農業高校でやるレベルじゃなくて、

大学の研究室でやる水準のものが含まれているですよね。

俺がやるべきことはこいつらをうろ高に押し込むことじゃなくて、

いっそ大学に飛び級するための書類でも作ってやることじゃないかって

一瞬思いましたよ。

・・・そっちについては改めて考えると、

『社会性が未熟すぎるからやっぱり高校行くべき』という結論に戻りましたが。

まあ、とにかく俺も負けていられないですよ。」


「萌は何をやろうと最高だーーーー!!!」


「素晴らしいですね。

渉君が今回の件で自分をまだまだだと思ったとしたら、

私たち先輩教員はもっと頑張らないといけませんね。

とはいえまずは彼らの進路をしっかり導いてあげないとですね。」


「とはいえそこはアホ軍団!!」


「正直、単純にうろ高に入りたいって言ってくれれば

あとは本番の試験で変なことしないようにだけしつけてやればいいんですけど、

東野のお姉ちゃん、うろ高に行くって話のはずが大騒動のあげく農業高校に

進路を変えたっていうのを司さんから聞いたことがあるんですよね。

直前になってあいつらもそんなこと言い出さないかだけが不安ですね。

萌ちゃんもやっぱり出欠の関係で推薦でうろ高って訳にはいかなかったですから、

本番体調不良にならないかどうかだけが心配ですよ。

いやいや、昨年合田の海江田入試の時も気を揉みましたけれど、

今年もやっぱり大変ですね。

まあ、そこが教師冥利に尽きるんですが。」


「萌は永遠なりーーー!!!」





「・・・あんたら、4人ともホントようやるな。」


「「え???」」

「「へ???」」


盛り上がっている4人というか、

2人×2組を下戸であり、

途中から飲むより吸うにシフト転換していた直樹が

どこか冷静に突っ込みをいれたことで、

彼らの珍会話はようやくストップした。




「いや、はたから見ていると面白いし、

感心する部分もあるんだが、

とても真似したくねえ気もするし・・・、

まあ、いいか。

そろそろ拓さんと清水の旦那は帰った方がいいんじゃねえか?

明日も忙しいんだろ?」

「あ、そうだね。

じゃあ、渉君、予定通りうちで泊まっていきなよ。」

「ホントすいません、拓人先生。」

「いや、そもそもうちの奥さんや娘たちがそっちに泊りに

行かせてもらっているんだから。

直樹くんはどうするの?」


そう聞かれた直樹は

未だ机に突っ伏しながらも

「倫子さん、なんでまだプロポーズ、OKくれないんすかーー!!」

「確かにあのチンピラは成長したかもしれないが・・・、

行かないでくれ、萌ーーー!!!」

仲良く喚き散らしている愚弟&商売敵を横目で見て、

溜息ひとつ。


「・・・こいつら一人で帰すと周りの迷惑になりそうなんで、

もう少し付き合って最終的に親父の所にでも押し付けますよ。

清水の旦那、多分アホ澄明日の午前中は使い物にならんけど、

大丈夫か?」

「明日は主に受験生たちへの指導が中心で

運営の仕事とかあんまりないからゆっくり寝させてやって。

撤収とかは手伝ってもらえると助かるから、

二日酔いが大丈夫なら午後から来てくれって伝えておいて。」

「了解した。じゃあ、二人ともお疲れさん。」

「お疲れ様。直樹くんも無理しないでね。」

「親父さんにもよろしく言っておいてください。」

「・・・ああ、分かったよ。」




そう挨拶して先に支払いを済ませて

飲み屋を後にする先生ズを見送った後、

直樹はもう一服吸いながら人心地ついていた。


・・・親父によろしくとか1年前の自分が言われてたら

きっと瞬間的にブチ切れていたことだろう。

蒼華が来たことで親父と自分の間に丁度いいクッションが

出来た気はしていたが、

自分自身の心境にも多少の変化があったようである。


二人の会話でも「変わらぬ強さと変わりたいという願い」みたいな

ものがテーマになっていた。

教育者ではない自分にもそれがあるのかどうか、

まださっぱり分からないものの、

とりあえず目の前のアホ二人の面倒を見てやろうという

気になるぐらいには良くも悪くも変わってきたということだろう。

とりあえず、今はそんな所で十分かとは思う。




「えーー、渉兄さんたち、帰っちゃったのーーー!?

まだ、飲み足りないよーーー!!」

「今頃あいつは高速バスの中か・・・

事故れとは言わん、悪夢でもみやがれ、泥棒犬!!!」


・・・はあ、流石に店に迷惑な気がするから、

外に出した後、とりあえずディーヴァの個室にでもぶち込むか。

適当にカラオケで大声出させておけば途中で力尽きるだろうし。

ああ、面倒くせえ。




ツンデレ兄貴はそういつものように愚痴りながらも、

酔っ払い二人に結局明け方近くまで付き合ってやったのだった。


うろなのexperience(経験)。

それは住民達を絶えず刺激しながら、

同時に変わらぬ優しさを彼らに与え続けているのである。

シュウさん達の企画、『うろな町』計画の作品です。


どうもYLです。

前書きにも書かせていただいたように4月1日に予定しているうろな町の未来を描くエイプリルフール企画がかなりの大物になってしまう模様で、

ちょっと練習がてら清水たちのことを書いてみようかと思い、

筆を取らせていただきました。

前後編で終える予定ですので、どうぞ気楽にお付き合いください。


前篇はバレンタインデー前日の清水達の飲み会の様子というどこに需要があるんだ(苦笑)という話になっておりますが、今年度のうろなについて殆ど書けていなかったので、それを補完するものとしてお読みいただければ幸いです。


舞台としては桜月りまさん初出の飲み屋『ほろろん♪』をお借りしております。清水と桜月りまさんの所の賀川さんが一緒に飲んだところです。よろしければ桜月りまさんの「うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話」も読んでいただければよりお店の雰囲気が分かると思います。また鹿島の「彼女」について、後編で出させていただこうと思っておりますので、そちらもよろしくお願いします。


また菊夜さんの「うろラジ!」より「うろ中3アホ軍団」の皆様をお借りしております。どんな奴やねん?と詳しく知りたい方は「うろラジ!」の「閑話、うろ中三年間アホ軍団 五月二十日」の方を是非お読みください。清水が彼・彼女たちに振り回されております。菊夜さん、問題がある部分がありましたら、おっしゃってくださいね。


またそのお話の中でアッキさんの「うろな高校駄弁り部」より横島楓さん、とにあさんの「URONA・あ・らかると」より岡本誓さんの名前を使わせていただいております。後編もちょっとだけ出ていただくかもしれないので、問題がありましたら、ご連絡ください。


またこの後綺羅ケンイチさんの「ユーザーネームを入力してください」で登場したカラオケボックス「ディーヴァ」に3人組が行ったことにしております。綺羅さん、深夜営業はしてませんよ、とかありましたら、遠慮なく突っ込んでいただければと思います。寺町さん、大変失礼しました(汗)


久しぶりなので、お借りしておきながら書き忘れている場合もあると思いますので、遠慮なくご連絡ください。


それでは後編でバレンタイン当日の騒ぎについて書いていけたらと思います。

恐らく投稿は明日になると思いますが、よろしければそちらの方もどうぞよろしくお願いします。


最後になりましたが、エイプリルフール企画も、流石にヒロイン追加は難しいですが、敵キャラやサポートキャラ・アイテムなんかはまだまだ大募集しておりますので、うろな町企画に参加されている、以前参加されていた皆様、どうぞお気軽にご参加ください。


コラボ作品URL

うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話

http://ncode.syosetu.com/n2532br/

清水と賀川さんの飲み会

飲み会中です

http://ncode.syosetu.com/n2532br/160/


うろラジ!

http://ncode.syosetu.com/n0936bv/

閑話、うろ中三年間アホ軍団 五月二十日

http://ncode.syosetu.com/n0936bv/15/


うろな高校駄弁り部

http://ncode.syosetu.com/n7660bq/


URONA・あ・らかると

http://ncode.syosetu.com/n8162bq/


ユーザーネームを入力してください

http://ncode.syosetu.com/n9290bv/

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