プロローグ 「逃走劇と少女の拒絶」
僕は今全速力で逃走している。
『何から』というのは目を背けたいところだが、後ろから追いかけて来るのは我先にと僕を捕まえんとする女子高生の群れ。
人生変われと言う奴。是非とも僕と人生変わってほしい。
ここまで需要と供給が一致する願いを叶えてくれない神が憎い。
何が悲しくて怒られるリスク背負って学校の廊下を全力疾走しなくちゃならないんだ……
ひとまず追っ手の目を掻い潜ろうと丁度右折してすぐのところにある階段を軽いステップで一気に踊り場まで飛び抜け、そのまま下の階へ進んだ。追っ手との距離がそこそこ開いてたのが功を奏したようで、どうやら撒いたようだ。
よし、図書室が見える。あそこに避難しよう。
この高校の図書室は古く寂れていることで有名な学校の不人気スポットの一つに数えられている。隠れるには丁度いい。
奥まで行けば隠れることができると思い、中に入って左側の分厚い辞書や図鑑がズラッと置いてあるスペースのところまで行った時、
エンカウントしてしまった……女に……
全力で走ってた僕の息づかいはもちろん荒れていた。
向こうの目がこっちに来てしまうのも仕方ない。
「えっと……」
どうにかしてこの場を乗り切らなくては。今外に出るわけには行かないんだ。
「図書委員かな? 実は本を借りようと思って」
なるべく笑顔で言い繕って見たが厳しいか。相手も極度に苦い顔してる。
腹を括るしかないな。本当の事を言って匿ってもらうしかなさそうだ。
僕は制止するかのように手を前に出しながら作り笑顔で説得しようとした。
「あ、いや、実は――」
「ち、近寄らないで……くだ、さい……」
そんな僕の耳に聞こえたそれは、何年も聞くことのなかった久しぶりの女性からの拒絶の言葉だった。




