猫といぬたまっ!-2
「ね……猫がしゃべったぁぁぁぁぁ!!」
おれは高らかに驚きの声を上げた。
「わんこちゃんがそれを言うの!?」
シービーがすかさず突っ込んできた。
猫はコホンと咳払いを一つつくと、羽根つき帽子を取り胸に当て、行儀よく
お辞儀をした。
「皆さま御機嫌麗しゅう。申し遅れました、僕の名前はプス。
以後、お見知りおきを」
「あ、これはこれはご丁寧にどうもおれはいぬたまです。こいつはシービー」
シービーは先程のプスを真似してか、自分ののとんがり帽子を取って胸に
当ててお辞儀をしていた。
「このたびは僕の長靴が溺れている所を救出して戴いて、なんとお礼申し上げれば
よいか……」
プスはやたらとオーバーリアクションで
地面に跪き、両手を掲げて喜びを表現している。
なんかミュージカルやオペラを見ているみたいだ。
「ぐーーーーーーぅ」
俺とシービーのおなかがそれに答えるかのように鳴いた。
それを聴いたプスは、ハッと何かを察したらしい。
「そのような事で宜しければ!しばしお待ちを!」
プスはスタスタと川に歩み寄り、腰に巻いたベルトからスラリとレイピアを抜き取った。
そして切先を水面に向けると、微動だにしなくなった。
近くの木から葉っぱが一枚ヒラヒラ舞い落ちてきた。
それが水面に触れたその一瞬!
「にゃぁぁぁーーーー!!!!」
たぶん掛け声だろう。なんだかんだ猫だ。
レイピアを目にも止まらぬ速度で川に突き刺した。
それを引き上げると、なんと6匹もの魚が一本のレイピアに突き刺さっていた。
「おぉぉぉぉぉ!!!」
ぱちぱちぱち!
俺達はその剣技?を讃え、拍手を贈った。
その後、シービーの魔法で火を起こし、久しぶりの食事にありついた。
「ところで、プス太とかいったっけ?お前さんはどこか貴族の猫なのか?」
おれは魚をむしゃむしゃ食べながら聞いた。
「プス太ではなくプスです。はい、たしかに僕は由緒あるキルケー家の猫でした……。
代々高貴な魔法使いの一族であるキルケー家は、魔王ケチャパに立ち向かい、
長期に渡る戦いの末、ケチャップまみれにされてしまったのです。
その際、まだ生まれたばかりだったキルケー家の赤ん坊と私だけはと、
奥様が魔王ケチャパの目を盗んで僕たちを逃がしまた。
その際奥様から頂いたのがこの長靴です。強い魔法がかけられており、
これを履いている間は、このように人語を解したり、剣技を振るうことができます。」
「ふーん、むしゃむしゃ、それでその赤ん坊はどうなったんだ?むしゃむしゃ」
プス太は膝から崩れ落ちて目を覆った。
「あれは僕たちが逃げ出して何日か経った後の事です。
この長靴を履いて歩く僕を見た悪い商人が、汚い手を使い、僕から長靴を取り上げて
何処かに売ってしまい、更に僕は檻に閉じ込められてしまいました。隙を見て
商人から逃げ出す事は出来ましたが、赤ん坊も長靴も行方知れずで、この10年間
その二つを探す旅をしていたのです。」
「10年間もか、それはまた随分と長旅をしていたものだねぇ」
おれは骨だけになった魚の骨を自分でもなぜかはわからないが、地面に穴を掘って
それを埋めながら言った。
「そしてやっと1つ目が見つかりました。しかし、未だ赤ん坊の手掛かりは掴めない
まま。当てもなく国中を探し回る旅を続けなければなりません。そういえばあなたがた
は何処に向かわれる御予定なのですか?」
「とりあえず先立っては北にあるカルミッチという街に行くつもりだ。」
プス太は腕を組み、少し考えた後、
「それでは、その旅に御一緒させていただいてもよろしいですか?
この先は魔物が結構いますし、あなた方には恩もあります。
用心棒程度にはお役に立てると思います。剣技には自信があるんですよ」
おぉ、それはたしかに願っても無い。猫だというのが気に入らないが……
「しょうがないなぁ、どうしてもというなら連れて行ってやるかぁ」
「わぁ!よろしくねプス太君!」
「プス太じゃ……いえ、もうプス太でいいですよ……」
・成り行きでブーツを履いた猫、プス太が仲間になった