祭り!そしていぬたまっ!
~ケチャップ魔界~
「我が魔王ケチャパ様……アドニス大陸の街カルミッチにて、大狼が
何者かに敗北を喫しました。」
王座に足を組んで偉そうに座っているケチャパ様と呼ばれる人物を前に、
一人のフードをかぶった男がひざまずいている。フードをかぶっているが
その下はまるで何も着ていない。生まれたままの姿だ。
顔を隠す前に他に隠す場所があるのだろうが、その様な常識は
ケチャップ魔界では通用しないのだ
「ほぅりぃーしっつ!」
魔王ケチャパは自分でもよくわかっていないであろう、異国の言葉で
怒りの声を上げた。両手で天を仰ぎ、無駄にオーバーリアクションを
している。
「いかがなさいますか?」
「ケチャップまみれ」
「はっ、かしこまりました。」
フードの男は次の瞬間姿を消した。
魔王ケチャパは指をパチンと鳴らした。すると、豚が頭にお盆を載せて
ブヒブヒ言いながらやってきた。お盆の上にはケチャップのボトルが載っている。
魔王ケチャパはそのボトルの栓を引っこ抜くと、一気飲みし始めた。
「やはりケチャップはカ○メが一番だな……」
--------------------------------------------------------------
「ケチャップ!?……ケチャップってあのケチャップ?」
シービーが疑問そうな顔で聞いてくる
たしかに大狼が吐いたのは血ではなかった。なぜかケチャップだった。
なぜケチャップなのか?大狼の血液はケチャップで出来ているのだろうか。
そんな事を考えていると、大狼がみるみるうちに縮んでいった。
そしておれと同じくらいのサイズになった。
「どういう事だ?元はこんな小さな狼だったのか!」
するとちび狼は目を覚ました。
俺達に気がつくとキャンキャンと言って一目散に逃げ出してしまった。
狼もキャンキャン言うんだな、知らなかった。
大狼の脅威が去った事を知ると、隠れていた街の人間達がぞろぞろと集まってきた。
「こいつはたまげたなぁ。あんなでかい大狼をやっつけちまったのか!!」
果物屋台のおっさんが驚いてそう言った。
他の街人達もわぁわぁと歓声を上げていた。
俺達3人、もとい、1人と2匹はそれはもうドヤ顔。鼻高々!
そこに1人のよぼよぼなおじいちゃんが現れた。
「ちょ、長老!」
果物屋台のおっさんが叫んだ。
「おぉ……伝説は本当だったのじゃ!街に災い来る時、犬とか猫とか魔女が
街を救う、と!」
「うそつくなよ……そんな伝説聴いたことねぇよ……」
果物屋台のおっさんがぼそっとつぶやいた。
そしてまだしゃべっている長老を無視して俺達に言った。
「とにかくだ、お前達は街を救ってくれた!今夜は祭りが開かれるだろう
主役として歓迎させてくれぃ」
その日の夜はそれはそれはもう、どでかい謎の肉塊やら、ミジンコのフライやら
豪勢な料理が振舞われた。この道中木の実やら川魚ばかりだった俺達は
夢中になってむしゃむしゃした。
余興で街の男達が必死にファイヤーダンスを踊ったりしていたが、それらには全く
目もくれなかった。
料理をむしゃむしゃしていると、昼間の狼少年が現れた。
「あ、あの!昼間は凶悪な狼とか、猫又とか、醜悪な魔女とか嘘ついて
ごめんなさいでした!」
ほう、自ら謝りに出向くとは見上げた根性だ。
「ふむ、少年。しかし本日2度目の鐘は嘘ではなかった。それはたしかに
街の危険を皆に知らせようと鳴らした物だった。そうだな?」
狼少年は目を潤ませて頷いた。
「これからも街に危険が訪れた時はおまえさんが鐘を鳴らすんだ。がんばれよ!」
「わかったよ!ありがとういぬたまさん!」
狼少年は深くお辞儀をして去っていった。
おれがこんな大人チックな対応をした事に
シービーもプス太も意外そうな顔をしていた。
それもそうさ。今日は気分がいい。それに俺達は今日は英雄なんだぜ?
今日くらいは最後までかっこよく決める!(キリッ
それから数時間後。夜もすっかり更けて、さっきまでのお祭り騒ぎも
終焉を迎え、広場も嘘のように静まり返っていた。
空を見上げると丸いお月様がちょうどてっぺんにきていた。
最高級の宿を用意されていた。シービーもプス太も今日はさすがに疲れた
のだろう、宿につくや否やベッドに倒れこみ、3秒寝んねとあいなった。
おれは未だ昼間の興奮が冷めず、こうして夜の散歩へと出向いている。
とりあえず広場のベンチの臭いを嗅いでから、
心地よい夜風と共にマーキングをした。
その時ふと、おれがこの街に来た理由を思い返した。
そう、あれはたしか案内天使が言った役割。
この街でただの犬として暮らす、というものだったはず。
今となってはどうでもいい事だが、それは野良犬なのだろうか、
それともどこかで飼われている飼い犬という設定なのだろうか。
マーキングをしながらそんな事を考えていると、背後から声がした。
「いぬ……たまっ?あなた、いぬたまじゃない!!」
マーキングをしているという最高に無防備な状態で背後から声をかけるなんて
卑怯なり!しかたなく残尿感覚めやらぬうちに切り上げ、バッと振り返る。
黒髪ロングで、白いワンピースがよく似合う、ものすごく好みの美女が
そこには立っていた……。
←To be continued




