出会い
中学時代の物が出てきたので手直ししつつ初投稿してみたいと思います。
~人間界~
周囲を深い森に囲まれた泉の畔で女がひとり佇んでいた。
何かを待つように佇むその女は白銀の髪をしているのに決して老いているようには見えない。
むしろ、荘厳とも神聖とも思える空気をまとい、ただそこにいるだけでただの泉を聖域かのように錯覚させる。
がさり。
時すら感じさせぬ空間に不意に葉擦れの音がした。
現れたのは見事なまでに漆黒の毛並みを持つ獣だった。
狼に似たその獣は、ゆったりと進み出ると女の方を向いた。
女も獣を見つめた。
雄々しく、悠然と構える獣はこの森の主であるのだろうと確信が持てるほどの風格すら漂わせていた。
獣も、女も、互いに見つめ合い、そして静止した。
一瞬とも永遠とも思える時を破ったのは獣の方だった。
歩を進め、泉の水を飲むと用は済んだとばかりに森に消えようとしていた。
女は何故か獣をこのまま行かせたくは無かった。
このまま何もせずに見送れば、きっともうこの獣には会えない。
そう、思った。
思った瞬間に獣は立ち止まり、静かに振り向いた。
そして、女を見つめた。
まるで、誘うかのように・・・。
女は最初戸惑っていたが、意を決したように獣に近づいていった。ゆっくりと。
獣の近くに腰をおろすと、白銀の髪がふわりと舞った。
「私はリーフと申します。リーフ・シェラン。あの・・貴方は?」
ごく自然に名を告げた。
そうする事が当然であるかのように。
だが、リーフはすぐに口元を手で覆った。
彼女は名乗ってはいけないのだ。
ここ人間界では、誰が、いや、何が聞いているのかわからないのだから。
「リーフか、似ているな」
地の底から響くような低く、けれど心地よい囁きが聞こえた。いつの間にか先ほどまでの神聖な空気は消え去り、闇が忍び寄っていた。
リーフは辺りを見回したが、闇を恐れている様子はない。
ただ、声の主を探していたのだろう。
安堵の為か小さく息を吐いたリーフは獣に目を戻した。
しかし、そこに獣はいなかった。
いたのは獣よりも深い漆黒の髪と獰猛にすら見える強い強い意思を持った漆黒の瞳の美しい男だった。
「どうした?」
惚けているリーフに表情を変えずに問いかけてくる男にリーフは一言だけしか言えなかった。
「・・・・きれい」
男は驚いたように目を見開いた。
「綺麗ね」
今度ははっきりとリーフは言った。
不思議そうにリーフを見ていた男はリーフが本当に心から言っているのだとわかると堪えきれずに笑い出した。
「え?あの、私変なこと言ったかしら?」
笑われた事に戸惑ったのか慌てるリーフに男はなおも笑う。
「いゃ、面白い娘だと思ってな?私が怖くはないのか?お前と相反するものだという事くらいはわかるだろう?」
男にそう言われ、リーフはなんと言って良いかわからなくなった。
そして、思うままに伝えてみた。
「ええ、確かにそうですが、私は今日ここにいなけれはいけない気がしたのです。そして貴方が現れた。」
言葉にしてしまえばだんだんと確信すらわいてくる。
だから、言った。
「害される事はないと思います」
ふんわりと微笑んで言ったあとで、ふと、思い出した。
「そういえば、何が似ているのですか?」
「あぁ、私の名だ」
男は何でも無いことのように続けた。
「リー・ハルブ。リーハと呼ばれている」
不敵に笑いながら、自らの名を告げたのだ。