リュシオン・ヴィオレット兄妹視点でニケ夫婦
高貴な血筋とその豪奢な美貌で社交界の華と名高いフーランジェ公爵家の兄妹は、その仲が大変いいことでも有名だった。
先王の妹である母譲りの金髪に父譲りの菫色の双眸を備えた二人は兄妹だということを疑うことは出来ないほど、性別は違えど似通ったものを持っていた。
そしてそれは、容姿だけではない。
ヴィオレットが香り高い紅茶に目を細めつつ兄に笑いかける。
「ねぇお兄様、今度ニケ様を屋敷にお誘いしたいのですけれど、いかが思われます?」
「それはいい考えだね、ただ他に誰を呼ぶかが気にかかる」
「大人し……穏やかな方ばかりですから大丈夫ですわ。アル兄様に兄様が睨まれるのは……面白い気もしますけれど、残念ですもの」
「そうかい。ニケ殿とは仲良くやれそうかい?」
「物静かな方ですけれど、大丈夫です。むしろ聞き上手な方ですから、私の方が話の種に困ることもなく、どんどん話してしまいますの」
「それはそれは。ただアルも無口過ぎる方だからね、二人は会話出来ているのだろうか」
にこやかに今日も最高級の紅茶を飲みながら会話する二人は一幅の絵画のようで、その場に居合わせた使用人達も眩しげに目を細めた。
――美貌に笑みを浮かべ、熱心に話しているのがたとえ二人の幼なじみの夫婦事情であったとしても、傍目からすれば絵になる光景なのである。
「アル兄様も、あんまり仕事ばっかりではなく屋敷にも戻られたらいいのに。必要なこと以外もどんどんやってしまわれるから、屋敷に帰られない日が多いのでしょう?」
「まぁ、あの若さで近衛第一隊の隊長なんてものになってしまっているからねぇ」
「ここ最近はその、戦なども起きておりませんから、確かに昇進が早すぎるという声があるのはお聞きしておりますけれど……」
「ネグロペルラ将軍の時とは、時代が違うからね……まぁアルなら大丈夫だろうけどね」
茶目っけたっぷりに片目をつむってみせた兄に苦笑して、ヴィオレットも同意する。
なんだかんだと美味しいところを持っていく幼なじみのことだから、きっと最終的には仕事も家庭も上手くいくだろう。
ただ。
「アル兄様は……美味しいところは持っていかれるのにここ一番というところはいつも兄様や他の方に取られておいででしたから心配ですわ……」
「…………」
妹のしみじみとした呟きにリュシオンはピタリと固まった。
(……確かに)
思い返せば昔から見かけによらず要領の悪い割には何だかんだと美味しいところを持って行っていた幼なじみだが、ここ一番という時には妙に勝負に負けるところがある。ここ一番という時に、間違ってこそいないがかなりズレた行動・言動で見事に勝負を潰して来た過去が二人の幼なじみにはあった。
そのここ一番が少ないから、本人が気付いているかどうかは怪しいが。
いやしかし、さすがの幼なじみも大丈夫なはずだ。
――そう信じたい。
「ふ、夫婦のここ一番といえばアレだね、浮気がバレた時だからきっと大丈夫だ」
「二人ともそういう方ではないですものね。……あ、ここ一番といえばやはり求婚ではないかしら。それならもう乗り越えていらっしゃるから平気ね」
安心だわ、と笑う妹に同意して頷き、同じく安堵していたリュシオンはふと意識の片隅で思う。
――そういえばアルがニケ殿になんと求婚したか聞いた覚えがないな、と。
たらりと背中を汗が滑り落ちる。
「お兄様?」
「……いや、それにしても今日のドレスはよく似合っているね。新しく仕立てたものかい?」
「あら、ありがとうございます。お兄様のおっしゃる通り、新しく仕立てましたの」
「そうかい。そういえば最近は――」
じわりと嫌な予感が滲みだすのに意識的に蓋をして、リュシオンは妹との茶会を楽しんだ。