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もしものはなし③

 風に乗って太鼓や鐘の音が聞こえてくると、子どもの頃のように気分が高揚して歩調が少し早くなってしまいそうだ。横を歩く女主人に合わせゆったりと歩くことを心がけつつ、ニケは常よりも紅潮した面持ちで、すぐそこに迫った白亜の城の尖塔を見上げた。

 ――ニケの兄らのうち、近衛にいる次兄だけではなく、殊更ニケに甘い三番目の兄も御前試合に出ることは、セラピア家の一大事として生家を離れたニケの元にまで報せが来た。

 普段は口数の少ない末の弟が矢継ぎ早にテオ兄が、デニス兄がと言いに来た時には二人が怪我をして戻ってきたのかと心配したものだが、聞かされたのは嬉しい報せで、ニケも我が事のように喜んだ。勿論一兵卒に等しいニケの兄達が国王陛下の観覧される試合に出ることは許されないだろうが、王族の方々や軍の上層部が立ち会う中、腕前を披露できる機会などそうはない。


「ニケさんのご兄弟は午後の試合だったかしら」

「はい。午前の試合は軍や近衛でも多く功績を挙げた方々が出場されるとかで、兄達は残念ながら……」

「功績といっても身分のある方ばかりと聞いたわ。伯爵家以上ばかりなのですって」


 つまらなそうに口をとがらせてみせる女主人に苦笑を返し、ニケは同じ付き添いに扮している護衛の青年、ルキウスに声をかけた。


「そろそろ席に着いた方がよいでしょうか」

「そうですね……観客で混み合う前に会場に入っておくとしましょう」


 長兄よりも少し年上だろう青年は頷くと、人で混み合う道の少し先に見える櫓を指さす。急ごしらえの観覧席は主に階級の低い武官やその家族向けで、貴族は櫓のさらに奥にある、より会場に近い普段は近衛の兵舎の一つとして使用している建物の中から試合を観ることになっているのだという。

 今回将軍が手配してくれたのは、女主人の体調を慮ってか兵舎の一室を開放して設けられた席で、貴族のための席ほどではないが、落ち着いて会場を見渡すことができる、という場所だった。

 警護と、人払いのためだろうか、通された席に隣り合う部屋や通路には将軍の直属の部下が配されているらしく、中にはニケの見知った武官も平服姿で観客を装っていた。目礼を交わして、案内された小部屋に入ればカウチが二脚、開け放たれた窓辺に置かれている。


「寒くはありませんか、おばあさま」

「大丈夫ですよ。今は逆に暑いくらい」


 送迎の馬車を降りてから歩いてきたこともあってか、女主人の頬は紅潮している。けれどまだ春と言うには寒い季節で、必要となればいつでも取り出せるように持参した毛織物を近くに用意して、ニケはルキウスを振り返る。心得たようにルキウスは頷くと、入り口付近に置かれたベルを鳴らす。

 お呼びですか、とほどなく従卒らしき少年が現れ、ニケはお茶とカップを人数分お願いした。すぐにお持ちしますと早足で少年が去り、部屋の中がしん、とする。

 女主人に請われ、隣りに腰掛け持参した今日の試合の組み合わせ表を開く。

 試合の前には軍の上層部や近衛が陛下の御前に列席するため、華やかな装いで会場に入場することになっており、女主人の目的はその中心になっているだろう将軍の姿を見ることだ。

「あの子の着飾ったところはね、本当にいい男ぶりなのよ。若いときはやんちゃさが抜けなかったんだけれど、おじさんになってからは貫禄みたいなのも少しは出てきていて」

「旦那様は今でもお若いですわ」

「ふふ。あの子が格好いいなんて騒がれるとほんとに嬉しくって」


 にこにこと笑う女主人は待ち遠しいのか、しきりに外の様子を伺ってはまだかしらと子どものように口を尖らせる。

 護衛の青年らと共にそんな女主人を宥めつつ、ニケも幼い頃に兄弟と見た、凱旋の行進の中で一際輝いていた深紅の英雄の姿を思い出していた。


 そうしているうちに高らかにラッパの音が鳴り響き、小鳥がそこかしこから飛び立つ。

 地面を揺らすような音と、馬のいななき。それに混じる鎧の立てる鈍い音。先触れが高らかに英雄たちの入場を知らせる。

 ざわめきとともに、櫓の方から歓声が上がり、まだ肌寒かった空気をなぎ払うような熱気が立ちのぼった。


 ――先頭を行くのは近衛の隊服に身を包んだ見目麗しい騎士たちで、白馬に騎乗して軍旗を掲げたまま駆け足で広い会場をぐるりと一周する。立ちのぼった砂煙をかき分けるように

して後に続くのは近衛各隊の隊員達だ。一から三の各隊が式典用の白い軍服を纏った隊長達の中でも、先頭をゆく近衛の隊長は一際凜々しい騎士姿で、近隣の部屋で観覧しているのだろう貴族の令嬢か、婦人方の歓声が聞こえた。


(何年か前は一瞬父様の部下でいらしたなんて、嘘みたい)


 かつて情けないことに酔いつぶれた父を家まで送り届けてくれた親切な部下の方が、きっと裕福な貴族なのだろうことはニケも察しがついていたが、まさかそれが名門伯爵家の出身で、あっという間に近衛の隊長職に就くような、王太子殿下からの信頼も厚い立派な方だとは思いもよらなかった。

 ――それになにより、将軍の実の息子である人なのだ。

 政略結婚だったという将軍と奥方の不仲はニケのような貴族の端くれの耳にも届くほど有名な話で、隊長があまり将軍と仲が良くないようだというのも、知れた話だった。


 ちらりと隣の女主人の顔を伺えば、やはり複雑そうな面持ちで隊長を見つめていた。

 将軍は身の危険が迫ることを危惧してか、女主人との関係をあまり公にはしていない。家族との仲が噂通りに不仲であるならば、引きあわせることもできなかったのではないだろうか。


「あんなに大きいのねぇ……そうよねぇ。もう二十年以上経つんだもの」


 ぽつりと零した言葉に胸をつかれるような心地がして、ニケは息を詰まらせた。

 けれど自分が軽率になにか慰めを口にするべきではないと思えて、何も言えないまま隣りにいることしかできない。

 そうしている間にも次々と近衛の隊員達が会場入りしてくる。


「……ニケさんのご兄弟もあの中にいるのかしら」


 場を紛らわすかのようにかけられた言葉に、一拍遅れて肯定を返したニケは居並ぶ白い騎士達の中に次兄の姿が捉えられないかと目をこらす。

 四人いる兄らのうち、一番細身の兄は屈強な兵卒の中に混じればかえって見つけやすいのだが、貴族の子弟で占められる近衛の中では周囲に紛れてしまってなかなか見つけることができなかった。特にニケと同じ、灰がかった栗色という地味な髪色では尚更だ。将軍のように見事な赤毛であればすぐに見つけることができるのにと思いながら、ため息をつく。

 見つかったかしら、と問う女主人に残念ながら、と首を横に振る。

 近衛の入場も終わって、続くのは軍の隊列だ。

 特に戦功の目立った者や、今日の試合に出場が許された者、あとは将校達で編成された隊列の中にはきっと三番目の兄もいるのだろうが、やはりニケには見つけられる気がしない。


「試合を見逃してしまうんじゃないかと心配になってきました」

「まぁ。でも試合なら今よりもうちょっと近くで観れるんじゃないかしら」


 ふふふ、と笑って視線を戻した女主人の瞳が少女のように輝く。ついで聞こえてきた一際大きな歓声に、将軍が入場したのだと悟る。

 将軍様、サイード様と悲鳴のような歓声に苦笑して、将軍が手を挙げれば群衆が沸き立つ。隣国では赤い悪魔とまで恐れられたこともあるという、燃える炎のような髪は後ろに流されているが、少し長い襟足の一房が時折風に煽られてちらちらとその存在を主張していた。


 いつもは将軍職にありながらも身軽な服装を好んでいるが、今日ばかりは式典用の将軍の正装に身を包み、長いマントを翻し馬を進める将軍の姿に、きっとニケも群衆に紛れていたら年甲斐もなく歓声をあげていたかもしれないと思った。

 兄の肩に乗せられて、王都に凱旋する将軍に拍手を送った幼き日のように。


「やっぱりうちの子は男前ねぇ。もうおじさんだけど、おなかも出てないし」

「そうですね、旦那さまは素敵な方ですもの」


 誇らしげに笑って女主人はきらきらと陽光を受けて輝く将軍を見つめている。

 少し遠いが、兵舎ならば風も遮られているし、椅子に座って休憩を取ることもできる。人に揉まれることもなく、落ち着いて式典の様子を見ることができた。

 決して狭くはない会場を馬で一周して、将軍は居並ぶ騎士や兵士らと、国王陛下の席のちょうど中間に設けられた、一段高い場所の前で馬を降りると剣を手に礼を取る。


 ――近衛の隊長が、よく通る声で陛下の入場を告げ、軍勢が最敬礼を取る。金属のぶつかる硬く鈍い音と、舞い上がる砂埃。一際盛大に鼓笛が鳴らされる中を、白と金に彩られた男が進む。容貌がはっきりと分かるような距離ではないが、その装いからその人が陛下なのだと分かる。線の細い、中背の陛下の後にはニケより数歳年上の王太子殿下が続く。


 将軍の晴れ姿が見られれば良いのだと、女主人は椅子に腰掛けてのんびりと過ごしており、ニケもそれに倣うことにする。口上も風に乗って途切れ途切れ聞こえるくらいなので、真剣に聞く方がむしろ難しいのだから。

 ニケたちが夢中になっている間に準備が整ったらしいお茶を少年から受け取り、ニケはきちんと温められたカップに人数分の紅茶を注ぐ。山盛りという訳ではないが、器の半分程度に盛られた砂糖まで一緒に用意されているのだから、さすがは王城というべきなのだろう。女主人に砂糖の有無を確認すれば、弾んだ声でじゃあ一杯、と返事がよこされる。ニケも匙で一杯の砂糖をカップに入れさせてもらうことにした。


 陛下のお言葉が終われば、今回の戦争で功績のあった者が名を呼ばれて国王から褒賞を与えられる。ニケの父や兄はそこまでの手柄を得ていないので、最後に呼ばれるのだろう将軍の番までは、楽に構えていることができた。

 ニケも何度か名前を聞いたことのある、近衛のまだ若い騎士らも勲章を授与されており、近衛にいる次兄の友人の名が呼ばれた時にはニケも拍手を送った。父がよく生家に連れてきては面倒を見ていた、ニケをかわいがってくれたおじさんやお兄さん方には近衛にまで取り立てられた人は少ない。兵卒の身で今回の式典に出場を許されたのも、両手の指で足りるほどだ。


 女主人は近衛の騎士らを見ては、やっぱり近衛ともなると上品な男の人が多いのねと感心したり、その装飾品を見てはあれならサイードにも似合いそうねとニケに意見を求めたりしながら、概ね楽しそうに観覧していた。


「ほらおばあさま、そろそろですわ」


 近衛の隊長が王太子の御前から下がれば、いよいよ将軍の番だ。

 先ほどよりも大きな歓声でもって讃えられ、将軍が陛下と、勲章を手にした王太子の前に進む。離れたところにいる観客だけでなく、兵士や騎士達からも自然と拍手が巻き起こった。将軍の耳には届かないことを承知で、二人で拍手を送る。

 深緑の軍服の胸元には、布地を覆い隠すほどの勲章がつけられているのだろう。それだけ戦功を重ねた英雄が今なお戦場で軍を率い、王直々に褒賞を賜ることがどれだけ難しいことか、ニケはよく知っている。かつて生家を訪れていた父の戦友のほとんどは命を落としたか、怪我で軍を去った。ニケと年の近い兵士達が名をあげることもなく死んでいく中で、未だ馬を駆り剣を振るう将軍の存在が、どれだけ希有なものであるか。


 御前に進み出て、陛下から直接勲章を授けられる将軍は、老いを感じさせない軽快な足取りでもう何十回と繰り返したのだろう式典をそつなくこなしてみせている。


「もう出番は終わりだねえ、残念だけど」

「今日の目玉は御前試合ですからね……残念ですけど」


 顔を見合わせて笑いながら、将軍が元の席に戻ったところで手を下ろす。叩き続けた手は、手袋の下で赤くなってしまっているに違いない。

 それにしても旦那さま以外に英雄と慕われる人はいない、と思ってニケの胸は熱くなる。

 若く容姿端麗な騎士たちに、友人たちと共に憧れたことはあるが、一番頼もしい人は誰かと問われればそれは将軍しかいない。ニケが男ならばきっと兄たちのように軍に入って将軍様のためにとできうる限りのことをしただろう。


 はしゃいで汗ばんだ肌に手巾を押し当てて、紅茶で喉を潤す。

 御前試合は始まっていて、陛下も観覧されるこの時間に登場するのは有力貴族の子弟らや、特に戦功の目立った者たちだという。

 女主人が時たま、今の人はあの子から名前が聞いたことがあるわと言っては、どうやら将軍の部下らしき騎士や将校に声援を送る。父の上官に当たる大隊長の名も呼ばれたのだが、父とその人との折り合いが悪いらしいことを察しているニケは控えめな拍手に留めておいた。

 そうして試合が進むうちに、近衛の隊長が登場する。相手は同じ近衛の若い騎士だ。

 近衛同士、それも若い未婚の、となれば心なしか今までよりも黄色い声援が多くなる。隊長よりも相手の方が年上なのだろうか。

 どちらかというと見せて楽しませるための試合ということもあって、冑もなく、剣も刃を潰してあると聞く。貴族の奥方や令嬢も多く招かれているため、血を見ることのないようにという配慮なのだろう。

 特にこの数年は絶えずどこかしらで争いがあり、近衛や軍に属する若い男たちは結婚するどころではなかったと聞く。ニケのような下級貴族であれば日々の生活にも困窮していた者が多いし、裕福な家の者であっても戦時下で華々しい式を挙げるわけにもいかないという面子の問題もあったのだろう。終戦を迎え、落ち着いた今こそまさに恋の季節というわけで。


「すごい声援ねえ」

「結婚相手を見定めに来ている方も多いのでしょうね」


 二人のいる兵舎の上の方の階には伯爵や子爵といった位の貴族も多く観覧に来ているのだという。ここへ来るまでに見かけた、華やかな装いの令嬢たちを思い出しながらニケは息を

つく。櫓にも花飾りなどを身につけた若い娘の姿が目立っていた。

 既に結婚している長兄以外に浮いた話を聞かない兄たちを見初めてくれるお嬢さんはいないものだろうか。


「ニケさんはどんな方が素敵だと思う?」

「おばあさま……」

「あの若い将校さんなんか、あの子の若い時にちょっと似てるわよ。こういう方がいいな、とかあればあの子に言っていい人紹介してもらいなさいな」


 将軍を見ていたときのようにきらきらと輝く瞳に見つめられると、適当に濁すわけにも行かず、ニケは困って視線をさまよわせる。居合わせる護衛たちも、置物のようにぴくりともせず二人を見守っていた。


「ううんと、そうですね……武官で……だらしないよりは、ある程度しっかりした方で……」


 考えながら指を折るニケに、女主人は続きを促すようにまばたきを重ねる。

 文官や商人よりは、幼い頃から慣れ親しんだ武人がいい。身の回りのことも最低限はできる人がいい。戦場に行ってしまったときに心配になるから。


「作ったご飯に美味しいって言ってほしいな、とか思ってしまいますね。うちの父が母にそうしていたので」


 出来れば美味しいとか好き嫌いを言ってくれるといい。父はいつも母のご飯を美味い美味いと食べていた。母に怒られた後の食事でも美味しいとごちそうさまは欠かさない人で、母が怒ってても毒気抜かれちゃうのよね、と笑って許していた。


「ニケさんのお父さんはいい人なんだねえ」

「はい。……ただお酒はほどほどに嗜むくらいの方がいいですわ。うちの父ったらあきれるくらいのお酒好きで、酔って失敗したことが何度も」


 そのたびに母に禁酒令を出されていた父を思い出してため息をつくと、女主人がたしかにそうねと朗らかに笑う。酒癖の悪い男はだめねと。

 背は高い方がいいのかしらと続けられて、ニケは特に深く考えず頷いた。両親ともに身長は高い方で、ニケも友人たちの中では上背がある方だ。舞踏会で踊る令嬢たちのように、ヒールの高い靴を履く機会などそうそうないが、やはり自分よりは体の大きい人の方が頼りがいがある。


「ニケさんは年頃のわりに欲がないわねぇ。それじゃあ武官で酒癖が悪くない人のうちだいたいが当てはまっちゃうわ。若い男の人は何にでも美味い美味いっていうしねぇ」


 困ったわねえと笑う女主人は、まぁあの子に任せて見所のある若い人を選んでもらいなさいなと言うが――ニケとしては、いまこの場にいるきっかけとなったあの金貸しからの縁談以来、もういいかなと思ってしまっているのだけれど。

 事情を知る女主人はもったいないと言ってくれているが、年かさと言われてもおかしくない年になり、領地も持参金らしいお金も持ち出せないだろうニケを貰ってくれる人などそうそういないだろう。平和な時ではなく、特に今の時勢では。

 ただそれをこの場で言うことではないだろうとニケは曖昧に微笑むに留め、隊長様の試合が始まりますよと外に視線を向けるよう促す。


 長身は将軍譲りなのか、貴族の子弟がほとんどの近衛の中では頭半分ほど飛び出して見える隊長は、今日は白い隊長服に身を包んでいる。道中耳にした黒騎士様という呼び名はきっと隊長を指したものなのだろう。

 光を吸い込むかのような黒髪に、怜悧な容貌。それでいて剣の腕もかなり立つという話だから、衆目を集めるのも当然だ。


 対戦相手の騎士と何度か切り結んだ後、まばたきをするほどの間に間合いを詰め相手の喉元に剣の切っ先を突きつける隊長の姿に拍手と、歓声が上がる。

 父の元で多くの兵士たちを見てきたニケからしても、お強いのだろうなぁと素直に思える見事な剣裁きだ。金髪の華やかな容貌の騎士らが、物語の王子様や英雄のようだと人気を集めているが、黒一色の隊長も母君譲りの端正な顔立ちが系統は違えども人気を集めているに違いない。

 酔っ払った上官――情けないことにニケの父だ――を見下したところもなく自分の馬車で送り届けてくれるような、律儀な面だってある。容姿端麗で剣の腕も立ち、誠実とくればこれはもう令嬢らが放っておくはずもない。

 王太子殿下や幼なじみなのだという公爵家の子息の陰に隠れているが、戦も終わったこれから、降るように縁談があちこちの名家から持ち上がるだろうことは容易に想像できた。


(雲の上の人ね)


 将軍様とは父子だが、折り合いが悪いという話だ。元々顔を合わせることなどないような高貴な身分の方なのだし、きっとニケと言葉を交わしたのだって父の醜態があったから。


「あっという間ねぇ」


 あれこれとニケが思いを馳せている間に隊長は次の騎士に場を譲り、元通り王太子殿下の側、軍や近衛の高官らが控える席に戻っていた。殿下から二言三言、声をかけられているらしい様子から目をそらし、女主人に紅茶のお代わりを勧めた。




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― 新着の感想 ―
[良い点] ゆっくりだけど、こういうのもいいですね。 夫婦の出会いを読むのが今から楽しみです。
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