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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

キタさんとミタオくん 3

作者: 灯月 寧
掲載日:2026/02/16

薄いカーテンの向こうから朝の光が流れ込んできます。

目覚ましアラームはセットしませんでした。

今日は休みの日だからです。


「ミタオくん、朝ですよ。たぶん七時くらいです」


「“たぶん”って何さ」


「太陽の角度判断です。だいたい当たります」


六畳の部屋は、布団をたたむと急に広くなります。

でもテーブルを出すと、やっぱり狭くなります。


それが、少し楽しいのです。



朝ごはんは、昨日の残りのご飯で作ったおじやです。

卵は半分こです。


「全部どうぞです」

「いや半分にして」

「では、きれいに割れるか挑戦します」


結果、少し失敗します。


「七対三になりました」

「今日はキタさんが七でいいよ」

「では次は必ず逆にします」


約束は、だいたい守られます。



洗濯機はありません。

二人でバケツに水をためて、順番に押し洗いです。


「リズムが大事です」

「仕事より真剣じゃない?」


「暮らしは本業ですから」


きゅっ、きゅっ、と布を絞る音。

窓の外では、電車が鉄橋を渡ります。


二人とも、その音で時刻がなんとなく分かります。



昼は別々に行動します。

商店街を歩き、どちらかが安い野菜を見つけると連絡します。


《もやし10円でした》

《それは事件です》


今日はミタオくんが、少し曲がったきゅうりを持って帰ってきました。


「安かった」

「形は自由ですから問題ありません」


味噌をつけて、かじります。

ポリッという音が、やけに豊かです。



夜は、川沿いを少し歩きます。

遠回りですが、電気代がかかりません。


「今日、嫌なことあった?」

「少しだけです。でも減りました」

「減った?」

「歩いたので、減りました」


「そっか」


「ミタオくんは?」

「増えたけど、今減ってる」


「では合計はプラスマイナスゼロです」


「便利な計算だなあ」



部屋に戻ると、ラジオをつけます。

古いフォークソングが流れています。


キタさんは湯のみを差し出します。


「高いものはありません。でも、温かいです」


「うん。十分だよ」


「十分は、すごい言葉です。満ちています」



寝る前、電気を消すと、外の街灯が天井に揺れます。

川の反射が、部屋に届いているのです。


「キタさん」

「はい」

「その暮らし方の研究、進んでる?」


「かなり有望です」


「成果は?」


「貧しくても、二人だと静かに笑えます」


少し間があって、ミタオくんが小さく笑います。


「それ、論文にしよう」


「もう発表済みです。毎日です」


川の音は聞こえません。

でも、流れている感じだけは、ずっとそばにありました。

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