5話
家に戻ってきたルナフレアは、乱雑に積み上げられた古い書物を一心不乱に漁っていた。
やがて一冊の書物を見つけ出し、そのまま何時間もその場を動かなかった。
「……やはりな」
ルナフレアが呟くと書物を閉じて、僕の方を向いて話し始めた。
「アルト、よく聞いてくれ」
「お前が使った魔法……あれは本当に白魔法なのか?」
「はい。光魔法は使えなくて、白魔法しか……」
「……とんでもないことだぞ、それは」
ルナフレアの表情はこれまでになく真剣だった。
「この世界がどうやってできたか、知っているか?」
「え……? いえ、詳しくは……」
「大昔、この世界は暗黒に支配されていた。光も命も存在しない、ただの闇だ」
ルナフレアは古びた書物を開き、挿絵を見せてくれた。黒く塗りつぶされた世界に、白い光が差し込む絵が描かれている。
「神がその暗黒を白色に変え、地上を創った。その時、神が使ったのが『白魔法』だ」
「白魔法は、世界を創った神の魔法……ってことですか?」
「ああ。そして光魔法は、白魔法から派生した力だ。川の源流と、そこから分かれた支流のようなものだな」
ルナフレアは立ち上がり、窓の外の星空を見上げた。
「神は人間の中から勇者を選び、光魔法を伝授した。魔王を倒すための力として。ルビスが使っていたシャイディーンも、その光魔法の最上級だ」
「でも、白魔法は……」
「そうだ。白魔法は神が人間に与えなかった。源流たる白魔法を使えるのは、神だけのはずなんだ」
ルナフレアが振り返り、僕を真っ直ぐに見つめた。
「なのに、なぜお前が使える?」
「……分かりません」
「私にも分からない。こんなこと、歴史上一度も記録がない」
僕は自分の手を見つめた。この手から放たれる魔法が、神の魔法だなんて、信じられなかった。
「ただ、一つだけ言えることがある」
ルナフレアが僕の肩に手を置いた。
「ルビスの光魔法は、魔王ヴァンデルには届かなかった。光魔法の最上級であるシャイディーンでさえ、奴を倒せなかった」
「……」
「でも、お前の白魔法は、光魔法の源流だ。支流で届かなかったなら、源流ならどうだ?」
ルナフレアの目に、希望の光が宿っていた。
「お前の力なら、ヴァンデルを倒せるかもしれない」
魔王ヴァンデル。その名を聞くだけで、胸の奥が熱くなる。母さんを殺した仇だ。
「……倒したい」
気づけば、僕は口を開いていた。
「僕の力がどれほどのものか分からない。白魔法で何ができるのかも分からない。でも……母さんの仇を討ちたい」
ルナフレアは真剣な表情で頷いた。
「ああ。ルビスの仇を討ちたいのは、お前だけじゃない。親友だった私もだ」
「ルナフレアさん……」
「よし! そうと決まれば善は急げだ!」
ルナフレアの表情が、一気に明るくなった。
「さっそく、あいつらにも声をかけに行くぞ!」
「あいつらって……?」
「決まってるだろ、残りの聖戦士だよ。まずはティーエに会いに行くぞ」
ルナフレアは勢いよく立ち上がると、部屋に散乱している飲みかけの酒瓶を集め始めた。
「……と、その前に決起会だな! よし、アルト! 今日はとことん飲み明かすぞ!」
「え、僕まだそんなに飲めな――」
「酒だ酒だ~! こんなにめでたい気持ちで飲める酒は久しぶりだ!」
僕の言葉など聞いちゃいない。ルナフレアは上機嫌で酒瓶を抱えている。
その後、しこたま酒を飲んで酔っ払ったルナフレアの姿は、僕の口からは言えるようなものではなかった。




