18話
山小屋に戻ると、ルナフレアとティーエが目を覚ましていた。
「おかえり。随分とたくさん採ってきたわね」
ルナフレアが籠の中を覗き込む。
「ええ。アルトちゃんが手伝ってくれたから、たくさん採れたの」
ローザは嬉しそうに答えると、さっそく天ぷらの準備を始めた。手際よく山菜を洗い、衣を作り、油で揚げていく。程なくして、部屋中に香ばしい匂いが広がった。
「うわあ、美味しそう……!」
アルトが目を輝かせる。
「さあ、できたわよ。熱いうちに食べてね」
ローザがテーブルに天ぷらを並べていく。雪蕗の天ぷら、春苔の天ぷら、そして雪解け花の天ぷら。どれもサクサクとした衣に包まれ、黄金色に輝いていた。
「いただきます!」
アルトが一口食べると、その美味しさに思わず目を見開いた。
「美味しい……!」
「本当?よかったわ」
ローザは嬉しそうに微笑むと、アルトの皿に次々と天ぷらを追加していく。
「もっと食べてね。アルトちゃん、まだまだ痩せてるんだから」
「ローザ、アルトを太らせる気?」
ルナフレアが笑いながら言う。
「そんなことないわ。ちゃんと栄養をつけてもらわないと」
ローザは真剣な顔で答えた。
「これから魔王討伐に行くんでしょう?体力がないとダメよ」
「あんたは本当に、過保護よね」
ティーエが呆れたように言うが、その表情は優しかった。
「だって……」
ローザはアルトを見つめた。
「ルビスの大切な息子なんだもの。私にできることは、これくらいしかないから」
「本当に大きくなって……」
ローザは懐かしそうに微笑んだ。
「よく泣く子だったけど、私が抱っこすると、すぐに泣き止んでくれたのよ」
「おむつを替えてあげたり、ミルクをあげたり……」
ローザは楽しそうに語る。
「ちょ、ちょっと!そういう恥ずかしい話は……!」
アルトは恥ずかしさのあまり、顔を手で覆った。
「あはは、アルト、真っ赤になってるわよ」
ルナフレアが笑う。
「恥ずかしがってるアルトたんも乙でちゅね」
ティーエもうれしそうな顔でアルトを見つめる。
「こんなおばさんにできることは限られているけど」
ローザは謙遜するが、その表情はとても幸せそうだった。
「そんなことないです」
アルトが真剣な顔で言った。
「僕にとって、ローザさんは大切な人です。お母さんみたいに、優しくて、温かくて……」
その言葉に、ローザは目を潤ませた。
「アルトちゃん……」
「だから、これからもよろしくお願いします」
アルトが頭を下げると、ローザは慌てて立ち上がった。
「そ、そんな!頭を下げないで!」
ローザはアルトの肩を優しく持ち上げると、ぎゅっと抱きしめた。
「こちらこそ、よろしくね。おばさん、アルトちゃんのためなら、何でもするわ」
温かい抱擁。アルトは、ローザの優しさに包まれながら、心の底から安心感を覚えた。
「さあ、もっと食べて。おばさん、まだまだたくさん揚げるわよ」
ローザは嬉しそうに、次の天ぷらを揚げ始めた。
天ぷらパーティーは、夜遅くまで続いた。四人は楽しい時間を過ごし、ローザの作る料理を囲んで笑い合った。やがて、夜も更け、皆が眠りについた頃。
ルナフレアが、ふと目を覚ました。酒を飲みすぎたせいか、喉が渇いて目が覚めたのだ。水を飲もうと窓辺に近づいた時、彼女の目に異様な光景が飛び込んできた。
遥か遠く、麓の町の方角に、不気味な赤い光が見えた。
「……あれは」
ルナフレアは急いで外に出た。 冷たい夜風が吹き抜ける中、彼女は町の方角を凝視する。赤い光は、炎だった。そして、その炎は、町全体を包み込んでいた。
「まさか……!」
ルナフレアは慌てて山小屋に戻り、皆を起こした。
「ティーエ!ローザ!アルト!起きて!」
「……なに?ルナフレア、どうしたの?」
ティーエが眠そうに目をこする。
「麓の町が……燃えている」
その言葉に、全員が飛び起きた。四人は外に出て、町の方角を見た。そこには、地獄のような光景が広がっていた。町は炎に包まれ、黒煙が空高く立ち昇っている。
そして、その炎の中に、不気味な影が蠢いていた。
「……魔王軍だ。魔王軍が、町を襲っている」
アルトがギリギリと音を立てる。
その時、ローザが前に出た。
「……行きましょう」
その声は、穏やかだが、強い意志に満ちていた。
「私たちには、人々を守る力がある。ここで何もしないなんて、できないわ」
ローザはアルトを見つめた。
「アルトちゃん。一緒に、戦いましょう」
その言葉に、アルトは強く頷く、ルナフレアとティーエもそれぞれの武器を握りしめた。
「さあ、行くわよ。魔王軍に、聖戦士の力を見せてやりましょう」
四人は、炎に包まれた町へと駆け出した。穏やかな夜は終わり、戦いの時が訪れた。魔王軍との戦いが、今、始まろうとしていた。




