17話
「アルトちゃん、今夜は美味しい山菜料理にしましょうね」
翌朝、朝食を終えたローザが嬉しそうに言った。
「山菜、ですか?」
「ええ。この山には美味しい山菜がたくさん生えているの。一緒に採りに行きましょう」
ローザは籠を二つ用意すると、アルトの手を取った。
「ルナとティーエは、まだ寝ているみたいだし、二人で行きましょうか」
霊峰アイゼンの中腹。ローザとアルトは、緑豊かな斜面を歩いていた。
「ほら、アルトちゃん。この草、見て」
ローザが足元の植物を指差す。
「これは『雪蕗』っていうの。天ぷらにすると、ほろ苦くて美味しいのよ」
「へえ……」
アルトは興味深そうに見つめる。
「こっちは『春苔』。これは煮物にすると最高なの」
ローザは手際よく山菜を摘みながら、アルトに丁寧に教えていく。二人きりの空間。まるで、母と子が一緒に過ごす穏やかな時間のようだった。
「ローザさんは、本当に何でも知っているんですね」
アルトが感心したように言う。
「そんなことないわ。こんなおばさんの知識なんて、大したことないのよ」
ローザは謙遜するように笑った。
その時、ローザの目が、崖の上に咲く一輪の花を捉えた。
「あら……あれは」
アルトも視線を向けると、そこには美しい白銀色の花が咲いていた。
「あれは『雪解け花』。最高級の薬草よ。傷を癒す効果があって、とても貴重なの」
「それなら、採りに行きましょう!」
アルトが言うと、ローザはわざとらしく腰に手を当てた。
「あらあら、あんなに高い場所……私のような盛りを過ぎた女の足腰じゃ、とても届かないわ」
そう言って、溜息をつく。
「残念だけど、諦めましょうか」
「そんな!」
アルトは慌てて言った。
「僕が、身体強化をかけます!それならきっと大丈夫ですよ」
「え?でも……」
「ローザさんなら、絶対に採れます」
アルトの真剣な眼差しに、ローザは優しく微笑んだ。
「……そう言ってくれるなら、おばさん、頑張ってみるわね」
アルトは、ローザに向かって白魔法を唱えた。
「身体強化!」
純白の光が、ローザの全身を包む。その瞬間――。ローザの全身に、衝撃が走った。
(な、なに……これ……!?)
普通のバフは、重い鎧を纏うような「外部からの圧力」。しかし、アルトのバフは全く違った。細胞の一つ一つが洗浄され、最適化され、全盛期すら超える内側からの爆発的な躍動感。
(私の剣聖としての回路が……勝手に再構築されている……!?)
ローザは内心で戦慄した。しかし、表面上は何事もなかったかのように微笑む。
「あら、体が羽根のように軽いわ。ありがとう、アルトちゃん」
ローザは崖に向かって歩き出した。その時だった。崖の上から、巨大な影が落ちてくる。
「――ガアアアアッ!!」
轟音と共に現れたのは、巨大な氷雪魔獣だった。全長5メートルを超える巨体。鋭い牙と爪を持つ、A級魔物だ。
「アルトちゃん、下がって!」
ローザが叫ぶ。しかし、魔獣の動きは速い。ローザに向かって、巨大な腕を振り下ろしてくる。その瞬間――。
ローザは無意識に、手に持っていた「山菜採り用の鎌」を一閃した。
――シュンッ!
魔獣の巨体が真っ二つに割れた。それだけではない。背後の巨大な氷塊までもが、綺麗に両断されていた。
「……え?」
ローザは自分の手元を見つめた。ただの鎌。それが、A級魔物を一瞬で葬り去った。
「あらやだ、おばさんびっくりして手が滑っちゃったわ」
ローザは慌てて誤魔化す。しかし、アルトは驚きの表情でローザを見つめていた。
「……今の、鎌でやる動きじゃないですよね」
「え、ええ……まあ、ちょっとね」
ローザは頬を掻きながら、照れくさそうに笑った。




