表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/38

15話

 雪と氷に覆われた険しい山肌を、三人は黙々と登り続けてきた。ティーエの氷魔法で足場を作り、ルナフレアの風魔法で吹雪を防ぎながらの過酷な道のりだった。


 そして、ようやく辿り着いた山頂。アルトは思わず息を呑んだ。

 険しい山肌を登り続けた先に広がっていたのは、意外にも温かみのある光景だった。質素だが丁寧に手入れされた山小屋。煙突からは白い煙が立ち昇り、周囲には綺麗に積まれた薪が並んでいる。


 その小屋の前で、金色の長い髪をした女性が薪割りをしていた。

 斧を振り下ろすたびに、薪が真っ二つに割れていく。その動作は無駄がなく、美しささえ感じさせた。


「あら、ルナフレアにティーエ!こんな辺鄙なところまで、わざわざ来てくれたの?」


 その女性――ローザは、二人に気づくと驚いた表情を浮かべた。斧を置いて、慌てて駆け寄ってくる。


「久しぶりね、ローザ。元気そうで何よりだわ」


 ルナフレアが笑顔で手を振る。


「こんなおばさん会うために、よく来てくれたわね。嬉しいわ」


 ローザは本当に嬉しそうに微笑むと、二人の手を取った。


「さあさあ、寒かったでしょう?中に入って。すぐにお茶を淹れるわね」


 そう言いかけたローザの視線が、ルナフレアとティーエの後ろに立つアルトに止まった。


「……あなたは、もしかして」


 ローザの瞳が大きく見開かれる。

 アルトは一歩前に出て、自己紹介をした。


「初めまして。アルトです。ルビスの息子です」


「アルトちゃん……!」


 ローザの声が震える。


「こんなに……こんなに大きくなって……!」


 次の瞬間、ローザはアルトに駆け寄り、いきなり抱きしめた。


「ええっ!?」


 アルトは驚きのあまり、声を上げる。


「赤ちゃんの時は、あんなに小さかったのに……おばさん、感動しちゃったわ」


 ローザは涙ぐみながら、アルトの頭を何度も何度も撫でる。その手つきは、まるで我が子に接するような優しさに満ちていた。


「ちょ、ちょっとローザ!アルト、窒息しそうよ」


 ルナフレアの言葉で、ローザはハッと我に返った。


「ご、ごめんなさい。つい、嬉しくて……」


 ローザは慌ててアルトを解放すると、申し訳なさそうに頭を下げた。


「こんなおばさんが、いきなり抱きついてきて、びっくりしたわよね」


「い、いえ!大丈夫です」


 アルトは顔を赤くしながら答えた。



 山小屋の中は、外の寒さが嘘のように暖かかった。

 暖炉には火が焚かれ、部屋中に心地よい温もりが広がっている。清潔に保たれた室内には、生活の温かみが感じられた。


「さあ、座って座って」


 ローザは三人を椅子に座らせると、手際よくキッチンで作業を始めた。

 程なくして、テーブルに温かいスープと焼きたてのパンが運ばれてくる。湯気が立ち昇り、食欲をそそる香りが鼻をくすぐった。


「こんな粗末なものしかないけど、たくさん食べてね」


「粗末だなんて!すごく美味しそうです」


 アルトが目を輝かせると、ローザは嬉しそうに微笑んだ。


「本当?よかったわ。おばさんの料理、口に合うかしら」


 アルトが一口スープを飲むと、その美味しさに思わず目を見開いた。野菜の甘みと、香辛料の絶妙なバランス。体の芯から温まるような、優しい味わいだった。


「美味しい……!」


「そう言ってもらえると嬉しいわ。アルトちゃん、もっと食べてね」


 ローザはアルトの器におかわりを注ぎながら、幸せそうな表情を浮かべた。


「ローザ、そろそろ本題に入るわよ」


 ルナフレアが、パンを食べ終えると真剣な表情になった。


「私たち、魔王を討伐しに行くの。一緒に来てほしい」


「魔王討伐……?」


 ローザの表情が曇る。スープを注ぐ手が止まった。


「でも……私なんかが役に立つかしら」


「何言ってるのよ。あんたは剣聖でしょ?」


 ティーエが呆れたように言う。


「こんなおばさんの剣じゃ、若い子たちの足を引っ張るだけよ」


 ローザは自嘲するように笑った。


「それに……魔王は、ルビスでさえ倒せなかった相手よ。私の剣が通用するとは思えないわ」


「また始まった……」


 ティーエが溜息をつく。


「ローザ、あんたはいつもそうね。もっと自信を持ちなさい」


「でも……」


 ローザが言葉を濁したその時、アルトが口を開いた。


「僕は、母さんの仇を討ちたいんです」


 真剣な眼差しでローザを見つめる。


「母さんは、魔王に殺されました。僕は、その仇を討たなければならない。そのために……ローザさんの力が、どうしても必要なんです」


 アルトの真っ直ぐな瞳に、ローザは息を呑んだ。

 その目は、かつての親友・ルビスと同じ、強い意志の光を宿していた。


「……そう。アルトちゃんがそこまで言うなら……」


 ローザは少し考え込んでから、優しく微笑んだ。


「おばさん、精一杯お手伝いさせてもらうわね」


「本当ですか!」


 アルトの顔がパッと明るくなる。


「ええ。でも、その前に……」


 ローザはアルトの服をじっと見つめた。


「あら、服が破れてるわ。袖のところも、裾も……こんなボロボロじゃダメよ」


「え、あ、これは道中で……」


「今すぐ繕ってあげるわね。それと、お風呂も沸かさなきゃ。体を温めないと風邪ひいちゃうわよ」


「いや、そこまでしていただかなくても……」


「ダメよ」


 ローザはきっぱりと言った。


「それに、髪も伸びてるわね。切ってあげましょうか?あ、靴も汚れてる。磨いてあげなきゃ」


「ローザ……」


 ルナフレアとティーエが、呆れたような、でも微笑ましそうな表情で見守っている。


「相変わらずね」


「ええ、本当に」


 二人は顔を見合わせて苦笑した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ