1話
「アルト、おまえクビな」
次期勇者パーティーとして名高い『蒼い翼竜』のリーダー・ジャックスは、僕に突然のクビを宣告してきた。
クエスト終わりの街の酒場。パーティーメンバーで酒を飲み、リラックスしていた僕は、あまりにも唐突な発言に頭の中が真っ白になった。
必死に言葉を紡ぎ出し、こう尋ねた。
「……理由を聞いてもいいかい?」
ジャックスはこちらを見下すような嘲笑を浮かべる。
「勇者の息子だから、パーティーに入れてやってたけどさ」
「おまえ、全然、光魔法つかえねーじゃん」
たしかに、僕は勇者の息子なのに、光魔法が使えない。
僕の母親は三代目勇者だった。勇者になる条件は、最上級の光魔法・シャイディーンを使いこなせること。母は現代で唯一人のシャイディーンの使い手であり、人々の希望の象徴だった。
しかし、母は魔王城で戦死した。
母の死を皆が悲しむと同時に、母に向かっていた人々の期待は、息子である僕に真っ先に向けられた。
だが、人々の期待はすぐさま落胆に変わった。僕が光魔法を使えなかったからだ。
僕が使えるのは、支援魔法と呼ばれる白魔法だけだった。
「たしかに、光魔法は使えないけど……」
「白魔法でみんなを援護してきたじゃないか」
「白魔法だぁ? 勇者の息子なんだろ?」
ジャックスは鼻で笑った。
「後ろでいっつもコソコソと逃げ回ってるだけじゃねーかよ」
手に持ったエールを一気に飲み干すと、勢いよくグラスをテーブルに叩きつける。周囲の客が驚いてこちらを見た。
「……逃げ回ってるわけじゃない」
それ以上のことを言い返せなかった。勇者の息子なのに光魔法が使えない。そのことに、ずっと後ろめたさを感じていたからだ。
「おまえとは昔からの付き合いだからな。ちょっとは期待してやってたんだぜ。いつか光魔法使えるようになるんじゃないかって」
僕とジャックスは、家が隣同士の幼馴染だった。
幼い頃、二人で夢を語り合った。いつか勇者パーティーを結成して、魔王を討伐しようと。母が生きていた頃は、ジャックスも僕のことを対等な仲間として見てくれていた。
その後、ジャックスが連れてきたエレナとユミルの二人を加えて『蒼い翼竜』を結成した。最初は順調だった。僕の白魔法でみんなを支援し、ジャックスが前線で敵を倒す。息の合った連携で、パーティーのランクは着実に上がっていった。
しかし、ランクが上がるにつれ、ジャックスの態度は変わっていった。
そして、母が魔王討伐中に戦死したというニュースが大陸中を駆け巡ると、ジャックスは僕への侮蔑の感情を隠さなくなった。
「勇者の息子ってだけで、パーティーメンバーの枠使えねーんだわ」
「まぁ、勇者っていうのもたかが知れてるか」
ジャックスは酔いに任せて、さらに言葉を続けた。
「結局、魔王を倒せずに途中で死ん――」
ガシャン!
ジャックスの言葉を遮るように、僕はグラスをテーブルに叩きつけた。
「それ以上言うな!」
自分でも驚くほど、低い声が出た。
「それ以上言ったら、僕はジャックスを絶対に許さない」
「ハハハ! 後ろでコソコソしてるやつが、この俺にたてつく気か!?」
ジャックスは面白そうに笑うと、席を立ち上がった。
「おもしれー、いまからやってやるぜ」
僕に掴みかかろうとするジャックス。その目は血走り、完全に酔いが回っていた。
「もう、いい加減にして!」
「ジャックス、飲みすぎよ」
パーティーメンバーのエレナとユミルが、慌てて間に入った。二人がジャックスの腕を掴み、必死に押しとどめる。
「もういい。出ていくよ」
僕は静かに席を立った。
自分のことをいくら悪く言われようと、それは仕方ないと割り切っていた。勇者の息子なのに光魔法が使えない。それは紛れもない事実だから。
でも、母のことを悪く言われるのは、絶対に許せなかった。
「アルト……」
エレナとユミルが、心配そうな目で僕を見ていた。
二人がいてくれたおかげで、なんとかやってこれた。二人がいなければ、ジャックスはもっと早く僕を追い出していただろう。
ただ、ジャックスがリーダーである以上、二人が彼を諫めるのにも限界があったということだ。
「おまえみたいなお荷物野郎はいらねーんだよ!」
酒場を後にする僕の背中に、ジャックスが吐き捨てるように叫んだ。
「とっとと消えろ!」
振り返らなかった。振り返れば、涙がこぼれそうだったから。
こうして僕は、『蒼い翼竜』を追放された。




