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幕引き

作者: しょ
掲載日:2025/12/12

なんか小説書いてみたいと思って初めて書いてみる!

ちっちゃいときから本読むのは好きやし、もし書くとしたらこれみたいなアイデアはまとめてあったからあとは気合い

 ……半年、ですか。

 病名を告げる医師の口元だけがやけにくっきりと見えた。言葉そのものは、まるで水中に響くように、輪郭無く揺らいでいる。自分の声が、他人のもののように感じられた。

 葛葉薫は、ゆっくりと窓の外に目を向ける。冬の光は色を持たず、書き殴られたカルテに薄い白を落としていた。能舞台に立つとき、面の奥で受ける照明の光もこんな色だった、と薫は思う。

 何の意味をも待たない、ただの光。

「そうですか」

 裏返りそうな声を抑えつつ答えた。能楽師は死の影を扱い慣れている。だが、いざ自分の身に降りかかると、感情が麻痺することを薫は初めて知った。

 医師は治療、ケアの選択肢を告げたが薫は断り、診察室を後にした。50年近くを能に費やし、生涯のほとんどを捧げてきた。己の肉体に執着は薄い。ただ、心のどこかで、まだ舞台の匂いを手放せない自覚があった。

 病院の外で切り裂くような風に身を震わしたとき、弟子の和馬が駆け寄る。

「先生、……どうでした」

「狂言の稽古をしたい」

「き、狂言ですか?」

「そうだ。残された時間で、狂言を学びたい」

 能楽師、葛葉薫の人生に私生活は、ほとんど存在しない。生涯独り身であり、友人らしい友人もいない。弟子と舞台だけが彼の人生だった。その薫が、最期になって能ではなく狂言を望むなど、和馬には理解できなかった。

「なぜ狂言なんです?」

「浮世の隙を、明けてみたくなったのだよ」


 狂言方、多賀恭介の稽古場は、町外れに残る古い蔵を改装した代物だった。壁に残る土の匂いが、妙に温かい。能舞台の張り詰めた空気とは対照的だった。

「……本当に、葛葉先生が?」

「ああ、稽古を願いたい。できれば、今日からでも」

 薫が直立すると、多賀は目を丸くしてから深く頭を下げた。

「光栄です!ですが、どうして急に?」

「理由は、いずれ話す」

 多賀は一瞬迷ったようであったが、それ以上は踏み込まなかった。

「ではまず”型”から始めましょう」


 稽古を重ねる内に、薫は自分が滑稽に思えてきた。

 能は削ぎ落としの極みだ。指先ひとつ、歩幅ひとつが揺れただけで、世界が乱れる。しかし、狂言は揺れていい。人間の愚かさも迷いも、そのまま芸に成る。

「先生はもっと人間になってください」

「……人間か」

「はい。今の先生は高尚すぎて、笑えません」

「それは面倒だな」

 薫が笑うと、つられるように多賀も笑った。笑う。その行為自体が薫には久しく無かった。能は笑わぬ芸だ。面の奥に表情を封じ、声と所作で幽玄を引き出す。

 稽古中、薫はよく足をとめ、呼吸を整えた。胸は時折、鉛のように沈み、内側で何かが軋むようだった。

「大丈夫ですか?」

「問題ない」

 嘘だった。だが、多賀の前ではなぜか虚勢を張りたかった。この若い狂言師が持つ”生”の気配に薫は憧れすら抱いていた。


稽古を始めて一ヶ月も立たない頃の休憩中、薫はふいに口を開いた。

「多賀、家族はいるのか?」

「え?あ、はい。妻と息子が一人」

「そうか……」

薫は湯飲みを静かに置いた。

「俺には、誰もいない。独りで生きてきた。能以外に寄りかかれるものを持たなかった」

「先生……」

「独りは悪いものではなかった。だが、死が近づくと心が揺れる」

 稽古場の窓から窓へと抜ける風は、乾いた冬の匂いを運んだ。

「能は死を美しく描きすぎた。俺は、その美しさに寄りかかって、死を怖くないふりしてきた。だが……

怖いものは怖い」

 薫の振り絞るような声に、多賀は静かにうなずいた。

「狂言は、怖がる人間さえそのまま芸になります。笑わせられます」

「それが……救いだ」

 薫の声は冬空を溶かすかのように、柔らかかった。


 ある日の稽古で、薫は突然ひざを折った。心臓を鷲づかみされたかのような感覚に、その場にうずくまった。

「先生!」

「問題……ない」

 呼吸が乱れ、体の奥で静かになにかが壊れ始めていた。病が進んでいる。時間は、あまり残されていないといやでも認識させられるようだった。

「今日で稽古は終わりにしましょう」

「終わり……か」

「ただ、最後に一つ。能舞台で狂言を演じてみませんか」

「??」

「先生の中の垣根を超えるんです。元をたどれば能も狂言の1つの芸ですから」

 薫は小さく白い息を吐いた。

「最期の稽古にふさわしいかもしれない」


 その夜、薫は久方ぶりに能舞台を踏みしめた。観客のない舞台は冷たく、白昼夢のように感じられた。多賀は黙って端に控え、薫が中央へ向かう様子を見つめた。

 長年踏みしめた板の感触が、足裏を通じて胸へ昇っていく。

 薫は狂言の基本の構えを取る。それだけで胸に痛みが走ったが、かまわず、一歩。また一歩。

 音が静寂を割る。その瞬間、薫は理解した。

――これが、浮世の隙を明けるということか。

 胸の痛みが進むたびに、幽玄の影が薄れ、滑稽の明るさがどこからともなく差し込んでくる。能と狂言の境目が、ゆっくりと昇華されていく。

「……軽い世界だ」

 薫は最後の一歩を踏みしめ、笑った。その笑みは、面の奥に封じ込めたものでは無く、薫という人間の本心であった。

 膝が折れ、体が前に倒れる。多賀の駆け寄る音が遠ざかっていく。最後の力を振り絞って見た天井は不思議なほど明るかった。

 幕が降りる。

 その夜、葛葉薫は静かに息を引き取った。能の幽玄と狂言の笑い、垣根が失われたその中に身を委ねながら。

意外と良いかも?

昔メモに書いたアイデアコピペ

タイトル:幕引き

内容

・能楽師のピーク~死に際

(能は悲劇、狂言は喜劇が題材になりやすいらしい)

・もともと能楽師として一流

・病気で余命宣告

・狂言の稽古することを決意メイン

・狂言師としての舞台は書かんくても良いかも

入れたい表現

・浮世の隙を明く

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