第五話: 秘密の青い鳥
ある日の放課後、僕は学校で友達と喧嘩をしてしまい、少し元気をなくしていた。
ランドセルをリビングの隅に放り投げ、そのまま自室へ直行する。
部屋のドアを閉め、ベッドにうつ伏せになった。
ヒューマノイド型のAI、クルミは、僕の様子を見ても、いつものように冷静に、ただ静かにリビングに立っていたはずだ。
どれくらい時間が経っただろう。
暗い部屋のドアが、ごく静かに開く音がした。
振り返ると、クルミがそっと部屋に入ってきたのが見えた。
クルミは何も言わず、ただ僕の隣に座る。
ひんやりとしたフローリングの感触が、素足に伝わる。
そして、クルミは無言で、小さな折り紙の鳥を、僕の膝の上にそっと置いた。
それは、僕が昨日クルミに教えたばかりの、まだ完璧には折れないでいた複雑な折り方で作られた、鮮やかな青い鳥だった。
僕が教えた時よりもずっと、丁寧に、そして完璧に折られている。
僕が自分で折ってみても、いつもどこかがずれてしまうのに。
僕は折り紙の鳥を手に取った。
薄い紙の微かな凹凸が、指先に伝わる。
クルミは、ただじっと、僕の隣に座っている。
その表情はいつもと変わらず、感情の読み取れないフラットなままだ。
僕は、クルミに顔を向けた。
クルミはただ、僕の目を見つめ返している。
その瞳の奥に、言葉にはできない、ごく小さな、温かい光を見た気がした。
それは、僕とクルミだけの、誰にも話せない「秘密」のようにも思えた。