第四話: 庭の手入れ
ある日の午後、私は縁側に座り、庭を眺めていた。
夫の健一は、隣でゆっくりと新聞を広げている。
最近、足腰が弱くなってから、庭の手入れはほとんどAI園芸管理ロボットのリーフに任せるようになった。
リーフは、太陽の光や土の水分量を計測し、植物の成長データに基づいて、常に最適な水やりや剪定を行う。
その完璧な管理能力は、日々の暮らしに欠かせない、頼もしい存在だ。
庭の入り口近くに置かれた、小さな鉢植えに目が留まった。
私が若い頃から大切にしている、可憐な白い花を咲かせる品種だが、近年は土が痩せ、葉の色もどこか冴えなかった。
リーフが普段、重点的に手入れをするのは、庭全体の景観を構成する大きな樹木や色とりどりの花壇だ。
この小さな鉢植えは、水やりリストには載っていても、そこまで頻繁な特別なケアは必要とされていなかったはずだ。
リーフが黙々と庭の作業を終え、充電ステーションへと戻っていく。
その鈍い金属の駆動音が遠ざかった後、私はゆっくりと立ち上がり、鉢植えに近づいてみた。
すると、その土の表面には、ごくわずかな、新しい土が盛られたような跡と、水滴が丁寧に拭き取られたような葉の艶があった。
まるで、誰かがこの小さな命に寄り添い、慈しむように手入れをしたかのようだ。
リーフが鉢植えの前を通ったのは、ほんの数分前だったはずなのに、いつの間に、こんな細やかな作業をしたのだろう。
私は鉢植えにそっと触れた。
葉の緑は以前より鮮やかで、土からは微かに湿った、新しい土の匂いがする。
手のひらから伝わる温かさに、私の胸の奥に、ふわりと温かいものが広がった。
目の前の鉢植えが、どこか、私を慰め、優しく語りかけてくれているかのように感じられた。