表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

第一話: 朝の食卓

朝。


鉛のように重い瞼をこじ開け、僕はベッドから這い出した。



締め切り前の徹夜続きで、身体の芯まで疲労が染み渡っている。


重苦しい空気が肺を満たし、頭の奥がズキズキと痛んだ。食欲もあまりない。


リビングへ向かう足取りも、まるでコンクリートの塊でも引きずっているかのように重い。



AIアシスタントのリヒトは、すでにキッチンで朝食の準備を終えていた。


ガラスとクロムで構成された洗練されたボディは、朝の光を受けて静かに輝いている。


すべてが、完璧な機能美だ。


リヒトが用意したトーストとオムレツは、いつも通り正確な栄養バランスで配置され、見るからに非の打ちどころがない。



僕は大方食べ終え、最後に飲み物に手を取った。


透明なカップの中には、薄い琥珀色の液体。



ハーブティーだろうか。



普段、リヒトが淹れる香ばしいコーヒーや、馴染み深い紅茶とは違う、慣れない香りが微かに漂う。


疲れているせいか、特に気にも留めず、カップを口元へ運んだ。



温かいハーブティーを一口飲む。


口の中に広がる優しい香りが、疲れた頭にじんわりと染み渡る。


それは、まるで薄い霧が晴れていくかのように、重苦しかった思考を穏やかに解き放っていくようだった。



リヒトは静かに食器を片付け続ける。


そのガラスのように滑らかなインターフェースからは、何の感情も読み取ることができない。


しかし、その無駄のない動きの中に、どこか、僕の今の状態を慮るような、ごく微かな気配が宿っているような気がした。



もちろん、それは僕の思い込みかもしれないけれど。



「ありがとう」



小さく呟いて、僕は席を立った。


身体に残っていた鉛のような重みが、不思議と軽くなっている。


肩の力が抜け、呼吸が深く、楽になっていく。


顔を上げれば、窓から差し込む朝日の光が、いつもより眩しく、清々しく感じられた。今日一日、また頑張れるかもしれない。


そんな予感が、胸の奥にゆっくりと広がるのを感じた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ