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僕が愛した世界を構築し直す

 

 君がいなくなってから一年が経った。僕は、

 とても立ち直れそうになくて。

 ずっとずっと地面に足をつかずに、死んだように、死ぬために生きているように過ごしてきた。

 視界が全て白黒だった。

 四月には母さんの顔がわからなくなって、五月には妹、六月には父さん、七月には全部の顔が同じに見えて、脳裏にこびりつく君の容貌だけがはっきりとしていた。

 僕の真横では常に生ゴミのような魚が泳いでいて、その魚は鋭利な口とヒレでいつだって僕を殺そうとしていた。

 それから僕の辿る道には白い花が列を成して落ちていて、僕はそれを毎日踏み付けながら歩くけど

踏み付ける度に君の絶望混じりの悲鳴が聞こえてきた。

(嗚呼泥泥。泥泥の世界でした。)

 夜は来ない。優しい朝も来ない。時間は止まっていたんだ、

 嘆きの

 昼

 に。


(愛してるの声)



 ある日、僕は、果実を見つけた。

 知らない人の家の木に生る、赤やオレンジやピンクなどの暖色の、抽象的な実だった。

 光っている。色彩が宿っている。

 白黒だったはずの世界に現れたそれに、僕は殆ど操られたように歩み寄り、手すら添えずに囓り付いた。


 その実は君の香りがした。

 その実は君の味がした。

 その実は君の温度。

 その実は君の色。


 その実は僕の喉を通って、僕の全身に息を吹き掛けて、それから言ったんだ。




「おはよう。」




 一度閉じて開いた目。

 色を取り戻していた。

 肌が春の温度を感じた。

 鼻が春の匂いを嗅いだ。

 耳が春のおとを聞いた。


 心が、春の中から、君の姿を見つけた。


「前を向いて。」


 以前とは違うけど、確かにまだ世界に存在する君を。


「一歩歩いて。」

「それから」

「駆ける。」


 僕は駆け出した。もう全てがわかる。

 僕の家も、僕の家族も、僕の過去も、僕の未来も、僕が何を愛したらいいかということも。


「君はここにいる。地面を蹴っている。

 そう、そうやって生きるんだよ。

 空気と一緒に優しいものをいっぱい吸い込んで、もっともっと、世界を愛して。

 もう何も怖くはないでしょう?」


 うん、怖くない。

 魚は鮮やかな色になって僕を護るように泳ぎ回る。花は大地一面に広がって唄い続けている。

 愛する人達の顔が浮かんでくる。


 ねえ、思い出した?と君が、弾む声で言ったのを聞いた。


 思い出したよ!

 僕は生きている! 生きてゆける!

 あたたかな大気に包まれて、地球を駆け巡る数多の喜びを感じて、今は

 心だけが見える!



 勢い余って下り坂で転んで、二、三回地面を転がると可笑しくなって笑った。涙には悲しい色なんてなかったんだ。


「…大好きだ…」


 空はびっくりするほど透明で、



『僕が愛した世界を構築し直す』

20100913

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