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戦場の喧嘩、新たな力

「――――はぁ。ほんと、僕は何してるんだ……」


 足元には真っ黒な甲板が、頭の上には絶望が広がっていた。無数に飛び回る人、魔族、獣人、そして宇宙人の軍勢。ビームやレーザーや炎や雷がそこら中でピカピカ光ってる。映像で観るより百倍怖い。


 ……だけど僕は妙に落ち着いていた。


 別にガルガンさんに触発されたわけじゃない。あんな狂った狂信はドン引きだ。だけど気付いたらここに転移していた。自分で自分にドン引きだ。


「……ほんと、馬鹿な生き物だよな、思春期男子って」


 周りを観察。甲板にいる部隊は皆空を見上げていて、離れた位置に転移した僕に気付いていない。


(……イメージだ。仲間を撃つわけにはいかない。アグレイだけを狙い、追い、撃ち抜き燃やせ)


 両手を空に広げる。指先一つ一つに【紅蓮光球】を装填。一発じゃない。魔力が尽きるまで弾を撃ち続ける機械になれ。


「――――【無限光弾】」


 ――瞬間、僕の両手は無数の、幾百の光球を撃ち出し始めた。それらはアグレイ目掛け一直線に伸び、仲間を避けて曲がり、また伸び、アグレイに次々と着弾していく。


(これヤバい、魔力が、力がどんどん抜けてく……)


 膝がガクガク笑っている。だけど思春期パワーはそんなことじゃへこたれない。そして着弾先、上空に目を向けた僕は…………死ぬほど後悔した。


『敵はこちらの魔法を無効化する力を持っていて、魔法が効きません』


 さっきのゼロスさんの説明。魔法の無効化。その正体であろう透明な壁が、アグレイ達を護っていた。


 じゃあどうしてルシアの魔法が通っていたのか、なんて疑問に耽る間もなく、僕の存在に気付いたアグレイ達が一斉に僕に振り向く。


 そしてアグレイ達が握った、光線銃の銃口に紫色の光が収束していく。


(あ、終わった。詰んだ。なんでこうなるんだよ)


 だが諦めて両手を上げた僕は――空を飛んでいた。


「何を、何をやっているのだ貴様‼︎ どうして出てきた⁉︎ あそこで待てと言っただろう‼︎ なんだあの魔法は⁉︎ 習ってその日にあんなの天才か⁉︎ 天才だバカっ‼︎」


「る、ルシアっ⁉︎」


 ジェットコースターどころじゃない。まともに目も開けられない。だけど僕の耳元で叫ぶルシアの支離滅裂な叫びはハッキリ聞こえる。……僕はルシアにガッシリ抱えられていた。


「えっと、ごめんルシア。来ちゃった」


「来ちゃった、じゃない‼︎ お前死ぬところだったぞ‼︎ いいや、私が助けなきゃ絶対死んでた‼︎ 死にたいのかバカ‼︎」


 ルシアの語彙力が低下しまくってる。まるで子供のようにバカだと連呼してくる。流石に腹が立ってきた。というか僕はルシアに腹が立っていた。だから僕も怒りのまま言い返す。


「バカはルシアだ! あんな無茶で馬鹿な戦い方して死んだらどうするんだ! ガルガンさんもゼロスさんもオブリオンのみんなも、もちろん僕だってルシアに死なれるのは嫌だ! 少しは自分のことを考えろよ馬鹿‼︎」


「んなっ⁉︎ き、貴様! ここで落としてやろうか⁉︎」


「やってみろよ! どうぞやるがいいさ‼︎ さっき死にかけたんだ‼︎ 今死んでも同じだ馬鹿‼︎」


「だ、誰がバカだバカッッ‼︎」


 まるで子供の喧嘩。異世界の、それも魔法やレーザーが飛び交う空で何をしてるんだろう。ルシアの顔は見えないが、冷徹どころか怒りで顔を真っ赤にしてるのが容易に想像できる。


「…………貴様、まさかそんなことを言うために、こんな危険な場所に出てきたのか?」


 と思ってたら急に落ち着かれた。地に足が付いてたらコケてたかもしれない。


「まさか。自分でも分かんないけど飛び出してた。だけど結局僕は足手纏いだ。ごめんねルシア」


「…………いや、いい……」


 レーザーを掻い潜りながらルシアがぽつりと漏らす。素っ気ない言葉だが、今までは違う何かが含まれている――気がする。


 そのままルシアと僕はしばらく戦場を飛び回り、やがてアグレイは僕への関心を失った。というかルシアの速度に追いつけず諦めたんだろう。


「――――よし、後は私が奴らの気を引く。ソラは今のうちにオブリオンの中に戻れ」


 甲板にそっと着地したルシアが、僕を離す。そして再び空に向け駆け出そうとしたが、もう一度僕に振り向いた。


「……ありがとう、ソラ」


 それだけ逃げるように言い残し飛び立つルシア。その背中を目で追いかけ――僕は周囲を見渡した。


(なんて、このまま素直に戻れるか。第一このまま戻ったらガルガンさんに殺される。それにやっぱりルシアが心配だし、何か――――ん? あれは……)


 そこで目に入ったのは銀色の光線銃。男なら誰もが憧れる科学の結晶。……だけどトカゲ型のアグレイの手の中。


 周りを警戒しながら、細心の注意を払いながら静かに近付く。グッタリと倒れるソレは、どうやら虫の息らしい。


(緑のトカゲ人間……爬虫類型宇宙人か……)


 コヒュー……コヒュー……と、か細い呼吸の音が聞こえる。顔を覗き込んだ僕に気付きもせず、静かに死を待っているようだ。


(こいつらも、なんでこんなになってまで……)


 ――と、僕が感傷に耽りそうになった時、トカゲ人間は突然目を見開いた。あまりに突然の出来事に、僕はその場で固まってしまう。


(やばい、殺される!)


 しかし遅れて身構えた僕を、トカゲ人間は驚いた顔で見上げた。そして聞き取れないほど小さな声で何かを呟くと、光線銃はグネグネと、まるでスライムのように形を変え、僕の手の中にポトリと落ちた。


「…………懐カ、シイ…………ツ……カエ……」


 最後に聞き取れる言葉を振り絞ったトカゲ人間は、そこで首をガクリと垂らし……息絶えた。


「…………なんで」


 満足げな死に顔。まるで意味が分からない。なんで敵の僕にコレを残したのか、何が懐かしいのか、こいつらの目的がなんなのか、理解が追い付くはずがない。だけど――。


「――分かった。ありがとう」


 球状になった光線銃。まるで何かに導かれるように、その一部に手を添える。すると――。


『――生体認証完了。第七宇宙起源の生命体であることを確認。シークレットロック解除。マスター情報登録――完了。マスターの身体情報を元にフォームを変更。及び本ユニットの搭載機能を電気シグナルにて送信。同期完了』


 無機質で機械的、それでいて中世的な声を発しながら、銀色のスライムが僕の体を包んでいく。それと同時に理解した。むしろ強制的に情報が脳に書き込まれた。このユニットの使い方、その能力を。


「……待っててルシア。今度は僕の番だ」



 そして僕は飛び立った。背中に煌めく、銀色の翼を羽ばたかせて――――。


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