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光と炎と襲来と

 ――魔力修練場にて。


「それではソラ君。僭越ながら私――治癒魔導士ゼロスが、君に魔法の使い方をレクチャーしましょう」


「はい、よろしくお願いしますゼロスさん!」


 見慣れてきたアグレイの巨大人形の足元で、僕は正座をしながら、ルシアの隣に立つ人物に返事を返した。


 ゼロスさんは青色のパーマのかかった髪と銀縁メガネが特徴な、落ち着いたお兄さんのような人物だった。


 元の世界の医者を思い出させる清潔感のある白衣。その下には青いチュニックと、ゆったりした茶色のズボンを履き、腰に巻いた革ベルトのバックルは、深緑の大きな魔石が埋め込まれている。そして銀色のシンプルなチェーンネックレスとイヤリングを身に付けており、第一印象としてはイケメンで落ち着いた医大生――といった感じだ。


「頼んだぞゼロス。同じ人間であるお前の方が、ソラに魔法の感覚を教えるのに適しているはずだ」


「お任せくださいルシア様」


 ゼロスさんはルシアに優しい表情で頷くと、僕にゆっくり振り返った。


「ではまず魔力の属性について簡単に説明します。……魔力は炎、氷、雷、風、念、光、闇の七つに大別されます。これは魔力の色により判別が可能であり、だいたい一人につき一つの属性を持って産まれてきます」


 まさにイメージ通り……だけど念ってのは聞き慣れない。


「ゼロスさん、念ってのはどんな魔力なの?」


 こういう時は素直に聞くのが一番。知るは一瞬の恥ってやつだ。ゼロスさんは優しく頷くと、僕の目を見て答えてくれた。


「念は紫色の魔力で、主に相手の精神に影響を及ぼす属性です。使い手は一部の魔族の方が多いですね」


 やだ何それカッコいい。僕もそれがいい。


「ちなみにですが光属性はもっと希少です。何せ使い手がほとんど確認できていないため、どんな性質かも一部の研究者しか把握していないとのこと」


 やだ何それもっとカッコいい。僕光属性で良かった。神様ルシア様、僕に光属性を授けてくれてありがとう。


(ん? それじゃあ闇属性ってのはどうなんだろ?)


 新たに湧いた疑問。すかさず質問。


「じゃあ闇属性ってのは?」


「闇はもっと希少です。この星……いえ、この世界でルシア様だけが持つ属性です。その力は全てを消し去る闇。まさにルシア様だけに許された絶対にして最強の属性です」


 どこか陶酔したような表情を浮かべるゼロスさん。だけど話した内容はけっこう怖い。ていうか今の話だとルシアはマジで魔王なんだと再認識させられる。


 しかしゼロスさんは手を軽く叩くと、その表情を元の落ち着いたイケメンに戻した。


「はい、属性についてはこれくらいにして、いよいよ魔法の講義に移りましょう。……ソラ君、魔力を発動してみて下さい」


「はい」


 ここ三日で掴んだ感覚。全身を魔力で覆うようにイメージすると、その通りに赤と白の魔力が僕の全身から上がった。


「…………魔力に目覚めて三日でこれほどとは……それに光と炎の二属性の魔力とは……」


「うへへ、ありがとうございます」


 気が緩んでも魔力を保てるようになった。それとこの状態だけでも、基本的な身体能力は人間のソレを遥かに凌駕している。


「それではソラ君。目を瞑り、自分の手の中に炎――もしくは炎の玉があるとイメージして下さい。焦らず、ゆっくり、強く想像するのがポイントです」


「はい」


 言われた通りイメージする。テニスボールほどのサイズの火の玉。大きさも重さも、握り慣れたテニスボールを明確に思い出す。


 すると魔力のほんの一部が体から離れ、手の中に収まった感覚を覚えた。


「……どうだゼロス。これが私が召喚し、直々に鍛えたソラだ」


「…………言葉も出ません」


 どこか誇らしげなルシアと静かに驚いたようなゼロスさんの声が聞こえる。


「ソラ君、そのままゆっくり目を開けて下さい」


 目を開ける。僕の左手は、炎を纏った、白く輝く魔力のボールを握っていた。


「……温かい。これが魔法?」


「そうです。その炎の玉はソラ君の魔力の一部に熱エネルギーを付与したモノ。魔法とは言わば、自分の魔力の性質を変化させ、自分がイメージした形で外部に出力する一連の動作の総称です。……ですがまさか、いきなり成功するとは思いませんでした」


 ゼロスさんは驚きをありありと顔に浮かべている。隣のルシアも僅かにドヤ顔をしてるのは僕の気のせいだろうか。


「ふふん、思春期男子の想像力を甘く見ないでよね。…………ところでこの玉、どうやって消すの?」


「あはは、流石ですねソラ君。……魔素を取り込むイメージの応用です。それはソラ君の魔力の一部。手のひらからソレを吸うイメージをしてください」


「あ、ほんとだ、できた」


 左手が掃除機になったイメージでスポンと吸うと、炎の玉は僕の体内に戻った。


「……これが才能……いえ、思春期の想像力ですか……」


「……もしかしたら、私に匹敵するやもしれん」


 目を丸くする二人。僕の妄想力もとい想像力は二人の予想を超えていたらしい。


 ……だけど自分でも驚きだ。確かに中学生の時は魔法や超能力に憧れて、毎晩こういう想像しながら練習してたけど、あの時の経験が活きてるのかもしれない。


「今のが魔法の基礎です。その感覚とイメージを繰り返し練習して、他の出力方法や魔力量の調整を自在に行うのが、基本的な魔法の練習になります。あ、ちなみにですが、魔力に付与できるのは自分が持つ属性のみ。ソラ君の場合は光か炎、もしくはその両方になります」


 気を取り直したゼロスさんのありがたい指導。ルシアも魔力について教えるのが上手だったが、ゼロスさんも負けないくらい分かりやすい。ルシアが師匠だとしたら、ゼロスさんは先生といった感じだ。


「ねえゼロスさん。他にも何かコツとかはあるの? なんかこう、カッコよく魔法を使えるような」


「あはは、その気持ちはよく分かりますよソラ君。……ではここで私からとっておきのアドバイスです」


 相変わらず優しい表情と声色で、ゼロスさんが語った。


「自分が使いたい魔法に名前を付けてみる。それともう一つ、身振り手振りを交えてその魔法を唱えてみる、なんてどうでしょう? ――例えば、今の炎の玉を飛ばしたい方向に手を向けながら、自分が考えた魔法を唱えてみるとか。こうすることでイメージ力が強化され、よりスムーズで強力な魔法が使えるかもしれません」


「何それカッコいい。やってみる!」


 ますます練習してた妄想トレーニングまんまだ。善は急げ。適当に周囲を見渡し、アグレイの人形に右手を向ける。


(えっと、じゃあ今の炎の玉……名前は……安直だけど【紅蓮光球】でいいや。……よし!)


「【紅蓮光球】‼︎」


 そう唱えた瞬間、僕の手にはさっきより眩しく輝く光の球が生まれた。真紅の炎を纏ったソレは、キュィィイン――という音を鳴らしながら、目にも止まらぬ速さでアグレイ人形に放たれた。


 そして【紅蓮光球】がアグレイ人形の胴体に触れた瞬間――ドゴオオォォォオンッ! と、まるでガス爆発のような轟音と爆発が発生し、薄暗い魔力修練場を明るく照らした。


「…………うわ」


 自分でやっておいてドン引きだ。モクモクと上がる煙が徐々に薄れると、そこには胴体から上が吹っ飛び、足だけになった元アグレイ人形が残されていた。


「えーっと……壊してごめん。まさかこんなことになるなんて……」


 恐る恐る頭を下げる――が、いくら待ってもルシアの怒声は聞こえない。完全な沈黙。怒りを通り越して黙ってるんだろうか。


 その沈黙に耐えきれず、やはり恐る恐る顔を上げる。そこには――。


「…………うそ……だってあの模擬兵って……」


「……ええ、巨人の特殊装甲を仮定して、アダマ合金で造ったと……ミアさんが……」


 ポカンと口を開けた二人が立っていた。


(どうする⁉︎ 今のうちに逃げるべきか⁉︎ いやでもオブリオンを好きに移動できるルシアから逃げられるのか⁉︎ ……やるしかない……ッ!)


 抜き足差し足なんとやら。泥棒のように身をかがめ、なるべく存在感を消す。


(よし。このまま二人から距離を……)


「――待てソラ。どこに行く気だ?」


「ひいっ⁉︎」


 すぐ背後。むしろ耳元でルシアの声がして、僕は怯えながら振り返った。すると――。


「ソラが私に召喚され、望郷に悲しんでいるのは知っている。……だが、本当に勝手だが……お前が来てくれたことに感謝する」


 そこには予想外にも嬉しそうに、僕に期待を込めた表情のルシアが立っていて、僕はその言葉に自分の価値を認められた気がした。


「…………うん」


(ありがとう、ルシア……)


 僕の心に空いていた穴を、温かい気持ちが包んでいく。その気持ちのままにルシアに微笑みを返す。


 ――だがその時、ズズゥゥゥウン――と遠くから不吉な音が響き、同時にこの巨大なオブリオン全体が揺れるような振動が、僕達を襲った――――。


ここから物語が本格的に動いていきます

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