第11話 FIRST BEST FRIEND
「今日はPartyだあーーー!!!」
「いぇーーい!!」
散りかけの桜並木の下で、柚奈と美依は互いにハイタッチしてスキップしながら声をあげた。
ただいま4時半。春なのでまだ日は明るいが夕暮れ時。
柚奈は美依と2人で下校中だ。
本当は桐と蓮と聖斗も誘ったのだが、3人とも部活があった。
そして、このあと何のお祝いかはよくはっきりしていないがどこかでパーティーをすることになった。
「てかそのパーティーどこでやんのー?」
「えー、どこにするー?」
「え、決まってないんですか?」
おいおい、と柚奈は苦笑する。
そして赤信号で立ち止まったとき、ポン!と手を叩き、くるりと振り返って元気よく挙手をした。
「ハイ!じゃー私ん家あいてるよ!」
「お菓子は?」
「ある!!」
美依が盛大に拍手を柚奈に送った。
柚奈も美依も噴き出して笑い合う。
こうして、目的地は柚奈の家に決定だ。
「ただいまー」
「おじゃましまーす!」
扉の鍵が開いている。
おそらく、帰って来ているのだろう。
廊下の一番奥の部屋から光が漏れていた。
柚奈は美依を連れて一番奥の部屋へと入った。
「おかえり」
部屋に入ると、緑のTシャツにトレーナーというラフな格好でソファに座っている和音がいた。
テレビのチャンネルをまわしていたが、柚奈以外の不審な物音に手をとめてこちらを振り返った。
そのとき、扉からひょこっと美依が顔を出した。
それを見て、和音は目を見開いた。
「・・・・客?」
「ハイ!親友の愛須美依です!」
「あー・・・・ども」
敬礼ポーズをする元気な美依に、和音はテンション低いまま軽く会釈した。
今まで友達を家に連れてくることなどなかった柚奈に、和音は驚いているようだったが顔には出ていなかった。
すると、洗面所の扉が開いて黒いTシャツを着ている和葉が現れた。
和葉も柚奈の背後にいる同級生らしき人物を見て、驚いているようだった。
「あ・・・・友達?」
「愛須美依です!」
美依は再び敬礼をとった。
和葉は左手をポケットにつっこみ、お茶を飲みながら軽く会釈した。
美依は敬礼を直したあと、ぎょっと目を見開いた。
「え、何?双子?」
「そうそう。こっちの緑が和音で黒が和葉。どっちも私の弟。前に弟いるって言ったよね?」
「姉さん、今着てるTシャツの色で言ったって役にたたないよ」
「俺等、私服は共有してんだから」
「後日あったときに和音の着てるやつ俺が着てるかもしんないし」
「声までそっくり・・・!」
ほおーと美依はじっと冷蔵庫をあけている和葉の横顔を見つめた。
和葉は冷蔵庫に何もないとわかると、扉をしめて和音の隣に座った。
美依は両手を口にあけて言った。
「同じ顔が二つ・・・!!」
「まーね。一卵性だからね」
「どっちが和葉くんでどっちが和音くんだったかもう忘れたよ」
すると、和音がくるっと美依の方を振り向いた。
美依はそれにきょとんとした。
「愛須さんでしたっけ」
「あ、ハイ。何か?」
美依はにっこり微笑んだ。
和音はそれに決して微笑み返しはせず、クールに無表情を装ったまま言った。
「いつもうちの姉がお世話になってます。多分、てか絶対迷惑かけたり変な事したりすると思いますが」
「ちょっと和音!!!あんたはいつから私の保護者に」
「あー今日もとある男子生徒に平手打ちくらわしてました。あと五体バラバラに引き裂いてやるとか言ってました」
「あーあーとても女子とは思えないね」
「でも姉さんにしてはまだましな方だよね。どこで習得したのか飛び蹴りとか回し蹴りとかしてくるからね」
美依は無邪気に笑った。
柚奈も、もーまったくとつぶやいたが微笑んだ。
その様子を、和音と和葉はじっと見ていた。
そして、和音が和葉につぶやいた。
「姉さん、楽しそうだね」
「だね」
柚奈は美依とテレビに映る何かを見て笑い合っていた。
普段、和葉達に見せるのと同じかそれ以上の笑顔だ。
和音と和葉は顔を見合わせた。
やっと、姉さんも普通の女子らしくなったみたいだ。
和音と和葉はふっと微笑んだ。
「へーえ。柚奈って弟いるんだ」
翌日の教室。
蓮も聖斗も興味深々に美依の話を聞いている。
桐は本を片手に読みながらも、こちらの話に耳を傾けているようだった。
「柚奈に弟なんていたっけ」
「海外で活動してたときは、弟は日本に残ってたの」
「海外で活動?」
美依は首をかしげる。
柚奈は、自分が幼いころピアノで海外活動をしていた事や、クラウティ=ファガロー国際コンクールピアノ部門で優勝した事を話した。
すると美依は目を見開いて驚愕した。
「嘘?!じゃあ、桐と同じじゃん!!」
「え、柚奈も桐もそんなにすごいわけ?」
蓮と聖斗はぽかんとしてこちらを見ている。
美依はただただ、呆然としていた。
「じゃあ、桐の3連覇を阻止した人物って柚奈だったんだあ!わ、すごーい!超偶然!!てか世界一だし!!」
「でも、そういうお前も世界一だろ」
「へ?」
「あ、そうそう。私、そのクラウティ=ファガロー国際コンクールのバイオリン部門で優勝してるんだよ」
「えーー?!美依もファガロー?!」
「私達超Destiny!!!」
柚奈と美依は手を取り合ってはしゃいでいる。
こうしてみると、ずいぶん前から親友だったように感じる。
本当にこの短期間に柚奈のまわりにはいろいろな事が起こった。
柚奈は無邪気に笑う美依に思わず微笑む。
楽しい。
学校生活でこんな事を感じる事などほとんどなかったろう。
本当に、楽しい。
「それじゃ、5月末にある京都研修について今日は話し合います」
桐は淡々と手元にある資料を読み上げた。
この5時間目の学活の時間で、この前の学級委員会で決めた京都研修について、クラスのみんなに伝え、そしてまた決める事がたくさんある。
研修かあ。
柚奈はどこか心の中で何か嬉しいような楽しいような、期待が膨らむのを感じた。
今までは、研修も修学旅行も全く興味は無かった。
群れるのが好きな女子が異様に盛り上がる行事だとしか思ってはいなかった。
でも、昔の柚奈と今の柚奈では状況が違う。
この研修は、すごく楽しめる気がする。
こういうのを「わくわくする」というのだろう。
「京都の歴史・文化に触れ、それと同時に互いに親睦を深めようというのが今回の目的です」
親睦ならもう深まってるよ、とばかりに柚奈は美依の方を見る。
美依もこちらを見ていたのか、目が合い互いに微笑み合う。
本当に、今まで見下してきた群れる女子と今の私も同じなのかもしれない。
それでも構わないと思えるのは、本当に自分が変わったからなのだろう。
「まずはグループ分けをしたいと思います。1グループ6人ずつで男女3人ずつです」
とたんにみな、席を立ちあがり、思いきり教室が騒がしくなる。
班でいいんじゃないかと学級委員会で意見がでたが、今の班だと男女の数が偏るので自由にしたのだ。
やはり、女子は仲のいいグループごとに分かれている。
男子はそれなりにグループなどはないので、ジャンケンやダチョウ倶楽部の真似事をしているのが見えた。
そしてやはり、女子の目は蓮と聖斗と桐に集中していた。
1グループに男女3人ずつ。
という事は、桐と蓮と聖斗が同じグループになるのは誰もがわかっている。
桐達と同じグループになる事を、このクラスの女子全員が強く望んでいるのが目に見えていた。
「あ、そうだ柚奈」
教室の端でイスにどかっと腰掛け、鼻をほじりながら桐と柚奈が進行していくのをぼけっと見ていた赤センが思い出したように言った。
「お前どーせ美依となるんだろ?それならお前んとこのグループは女子2人な。このクラス35人で女子は奇数なんだよ」
「あー、了解です」
美依も聞こえていたのか、親指を立てて見せた。
柚奈は返事代わりに微笑んで見せた。
すると桐が資料から目線をあげて言った。
「どうせ一緒になるんだろ?」
「何が?」
「俺等」
一瞬、桐が何を言っているのかわからず柚奈はぽけっとしていた。
しかし、そのあとようやくなんとなく桐の言う事が理解できた。
「あー・・・いいの?」
「いや、みんな立ってるのに美依と蓮と聖斗は立ってないから、もう既に成立してんのかなって」
確かに、他の男女はわいわいとそれぞれの仲良しで固まってグループ決めをしているのに、美依達は座って雑談をしていた。
言葉を交わさなくとも、互いに同じグループになると思っているのだろう。
横では桐が、柚奈が返事をする前に用紙の1班の枠に柚奈達の名前を既に書きこんでいた。
「痛いね。他の女子の羨望の眼差しが突き刺さってくるわ」
「俺、こういう男女混合のグループ決め嫌いなんだよ。女子が騒ぐから」
だろうね、と柚奈は相槌を打った。
これだけモテてりゃ、自分が女子に人気がある事を自覚せざるを得ないのだろう。
確かにこのモテようは尋常ではないからな。
「その点、お前みたいなのがいたら便利だよなー・・・・・お前と同じクラスになれてよかったよ」
「何?」
「いや?別に」
桐はふっと柚奈から目をそらした。
柚奈は不審そうに桐の見えない顔をじっと見つめる。
そっぽを向いている桐が、どんな表情をしているのか全く読み取れなかった。
桐は小さく咳ばらいして、何故か熱くなった頬に手を当てた。